#家族#日本#子ども

「スマホ育児」を
「孤育て」解消に役立てる。

佐藤 和順佛教大学 教育学部教授

Introduction

働き家庭が増える現代でも、育児負担の多くを母親が担っている現実がある。佐藤和順教授は、孤立した状態での「孤育て」を解消する一助として、スマホを育児に利用する可能性を提示する。

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多くの母親が「孤育て」を
余儀なくされている

電車の中、母親の傍らで子どもがスマートフォン(スマホ)を手にゲームをしている。「あんな小さな子どもにスマホを使わせるなんて、親としての責任を果たしていない困った母親だ」。そんな冷たい視線が母親に注がれることがある。

「スマホを育児に用いることに、社会では批判的な目で見られることは少なくありません。しかし、本当に悪いことなのでしょうか」。そう疑問を呈するのが、佐藤和順教授である。問題意識の背景には、誰の助けも借りられず、孤立した状態での子育て「孤育て」を余儀なくされている母親たちの負担を軽減したいという思いがある。

「共働き家庭が増える中にあっても、依然として子育てにかかる負担の大部分を母親が担っている現状があります」と、佐藤和順教授。男性の育児休暇取得を推奨するなど、国による子育て支援施策も打ち出されているが、男性育児休暇の取得率は低水準に留まっているなど、課題解決は容易ではない。

「昔は3世代同居が多く、親せきや近隣の人々などごく身近な『血縁』『地縁』の助けを借りることができました。しかし現代では核家族化が進んだことに加え、仕事の都合などで地縁のない場所に住むことも増え、社会と隔絶された中で子育てに孤軍奮闘している母親は少なくありません」と言う。こうした「孤育て」が、育児ノイローゼや児童虐待の一因になっているとの指摘もある。そうした現状を打破するための一つとして佐藤教授が着目するのが、「スマホ育児」である。

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「スマホ育児」に関する
全国調査で見えた課題と可能性

「スマホ育児」とは、「スマートフォンやタブレット端末などを育児に使用すること」と佐藤教授は説明する。保護者自身がスマホを操作しながら育児や家事をすること、また子どもにスマホを利用させておとなしくさせたり、その間に家事などを進めることもこれに当たる。「いまやスマホは私たちの生活に欠かせないものになっています。その中で『スマホ育児』をやみくもに否定するのではなく、課題と同時にその可能性を考えたい」として、佐藤教授は、「スマホ育児」に関する大規模な調査を行った。

全国の小学校就学前(0歳から6歳)の子どもをもつ母親1,000人を対象に、2022年6月から7月上旬にかけてwebを利用した調査を実施。スマホなどの情報機器の使用状況、サイトやアプリの利用実態、スマホを育児に使用する理由や場面などを調べた。

「調査の結果、まずわかったのは、64.5%、実に7割近くの母親が子どもにスマホを利用させている実態でした。この調査からも子どものスマホ利用は、ごく一般的であることがわかりました」と言う。

次いでどのような場面でスマホを育児に利用するのかを尋ねたところ、最も多かったのは、「家で静かにさせるため」(59.4%)、さらに「自分が家事をするときの子守代わり」(57.0%)、「怒ったり不機嫌な子どもをなだめたり、落ち着かせたりするため」(48.1%)と続いた。「この結果から、母親が育児や家事をスムーズに進める上で、スマホが一定の機能を果たしていることも明らかになりました」

とりわけ佐藤教授が注目したのが、「スマホ育児」と育児ストレスとの関係だ。「分析の結果、『スマホ育児』を行っている母親は、行っていない母親と比較して、育児ストレスが高いこと。また、育児ストレスが高い母親ほど、子育ての色々な場面にスマホを利用する傾向があることも分かりました」。特に動画サイト・ショッピングサイト・ゲームなどの利用頻度と育児ストレスには有意な関係性がみられたという。「育児ストレスが高い場合に、母親自身が気分転換や共感を得るためにスマホを利用することで、育児ストレスが軽減されている。『スマホ育児』が母親の育児ストレス発散の機会となっている可能性がある」。と評価する。

また、「スマホ育児」をすることで、子どもが「楽しそうにしていることが多くなった」(54.2%)、「様々な情報に触れることで知識が増えた」(47.2%)と肯定的な変化を認める反面、「見る情報が偏りがちになった」(35.2%)、「使いすぎで健康が損なわれた(視力の悪化、運動不足、肥満など)」(26.6%)などとネガティブな変化があったと答えた人もおり、懸念や不安を抱いていることも示された。

「つまり『スマホ育児』にはメリットとデメリットの両面があることを、母親が認識していることがわかりました。それを理解した上で、例えば使用時間の制限を行うなど、一定のルールを作って上手にスマホとつきあっていく態度が必要だと考えています」と考察する。

03

「孤育て」解消には「目的縁」の充実と
保育現場の環境づくりの両方が必要

佐藤教授は、今回の研究成果を学会等に報告するだけでなく、手に取りやすいリーフレットにして、幼稚園や保育所に配布し、保護者の手に届けている。「『リーフレットを読んで楽になった』『救われた』など、お母さん方から多くの反応をいただきました。『スマホ育児』に対するネガティブな認識を払しょくし、育児の負担軽減に役立てていただきたい」と発信の意図を明かす。

「孤育て」解消のために佐藤教授が重視するのが、保護者・子どもと地域をつなぐ「目的縁」だ。これまで父親や祖父母などの家族の育児参加に加えて、この「目的縁」というネットワークの構築についても研究を深めてきた。「家族の育児参加の次に現実的な育児支援の担い手は、幼稚園や保育所です。しかし厳しい労働環境に置かれている保育の現場で、今以上に保護者支援を充実させるのは難しい。幼児教育・保育の現場で働く人のワーク・ライフ・バランスの充実も不可欠です」と新たな課題を指摘する。

多様な目的縁の構築と、幼児教育・保育における働きやすい環境づくりの両輪で、「孤育て」解消に力を尽くしていこうとしている。

2024年8月更新

BOOK/DVD

このテーマに興味を持った方へ、
関連する書籍・DVDを紹介します。

教員著作紹介

  • 『保育者の働き方改革 働きやすい職場づくりの実践事例集』中央法規出版(編著)

  • 『保育者のワーク・ライフ・バランス―現状とその課題―』みらい

  • 『男女共同参画意識の芽生え―保育者から子どもへの再生産-』ふくろう出版

  • 『シリーズ知のゆりかご 子どもの姿からはじめる領域・人間関係』みらい(共著)

  • 『保育学用語辞典』中央法規出版(分担執筆)

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  • 子ども
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SDGsとの関わり

佐藤 和順/ 佛教大学 教育学部教授

SATO Kazuyuki

[職歴]

  • 2007年4月~2013年3月 就実大学・教育学部 教授
  • 2013年4月~2019年3月 岡山県立大学・保健福祉学部 教授
  • 2019年4月~現在に至る 佛教大学・教育学部 教授、岡山県立大学 名誉教授
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