#仏教

開設から10年、
佛教大学法然仏教学研究センターの
成果を振り返る。

曽和 義宏佛教大学 法然仏教学研究センター センター長/仏教学部教授

Introduction

教大学法然仏教学研究センターは、浄土宗の開祖・法然の仏教学の研究と文献収集を行う拠点である。2024年に開設10周年を迎えたことを機に、曽和義宏センター長は、その歴史と成果を振り返った。

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法然仏教学を研究する拠点を
佛教大学に開設して10年

2024年4月、佛教大学法然仏教学研究センターは、開設10周年を迎えた。

本研究センターは、浄土学を中心に、多様な学問的視点から、浄土宗の開祖・法然上人(1133- 1212)の仏教学を総合的に研究する学術拠点として、2014年4月に開設された。「法然上人の思想、浄土宗の教義や歴史は、日本仏教の単なる一宗派に留まらず、思想史上においても非常に重要な優れた内容を備えています。それにも関わらず、他の諸宗に比べて現存する史料や文献が非常に少なく、研究が十分進んでいないことに、かねてから課題を持っていました」と、現センター長を務める曽和 義宏教授は、センター設立の背景を説明する。

「佛教大学の原点は、浄土宗の僧侶を養成する学問所です。建学の理念にも、仏教を開いたゴータマ・ブッダ(釈尊)と、浄土宗を開いた法然上人に共通する生き方と考え方を仏教精神とし、これに基づく人材を育成することを謳っています。そうした本学だからこそ、法然上人、および浄土教思想研究の世界的な拠点として重要な役割を果たせると考えました」と言う。

開設以来本研究センターでは、法然上人および法然門下、浄土宗教団に関わる教義や歴史を総合的に研究するとともに、文献や研究を収集し、データベースを構築、さらに研究成果を社会に発信していくことに取り組んできた。またこの分野の研究の次代を担う研究者の育成にも力を注ぐ。

法然仏教学研究センター講演会(2016年)。近年はオンラインでも講演会を開催している。
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法然仏教の教義、
浄土宗の思想、周辺宗教者を研究
5冊の現代語訳を発刊

研究活動においては、研究分野ごとに三つの部門を組織し、それぞれ「法然仏教の基礎研究と教義解明」「浄土宗の思想的伝統および周辺宗教者の研究」「浄土宗における僧侶養成、教育・教化の研究」をテーマに研究を行っている。「年1回、『佛教大学法然仏教学研究センター紀要』を発行し、研究成果を学内外に公開・発信しています。発行は、2024年で10号を数えました」

また研究班ごとに法然の主著や関連文献の現代語訳も行い、書籍として刊行している。これまでに『桑門秀我著「選擇本願念佛集講義」』前篇(2020年)・同後篇(2022年)、『真葛傳語』(2020年)、『法然房源空述「逆修説法」』(2023年)、『現代語訳 安楽集』(2024年)の5冊を刊行した。

最新刊の『現代語訳 安楽集』は、中国の僧侶・道綽(562-645)が撰述したもので、浄土教信仰の概論を知る重要な文献である。「現代語訳だけを掲載した既存の文献とは異なり、本著では、現存最古とされる、野村美術館所蔵の写本(高山寺旧蔵本)を精緻に模した大谷大学図書館所蔵の順藝本を底本として、校正・訂正を加えた原文と現代語訳を併記し、各章末には詳細な注釈を加えました。研究班で既存の文献を校正・分析するとともに、多くの聖典を引用しながら緻密な論証を行いました」と、研究班の一員として研究を行った曽和教授は語る。

『現代語訳 安楽集』佛教大学法然仏教学研究センター(2024年)

また浄土宗僧侶にとっても重要な意味を持つのが、『真葛傳語』の発行だった。曽和教授によると、『真葛傳語』とは、修行を終えて浄土宗僧侶になる人に、荘厳儀式の中で、法然浄土教に則った教義を口授した内容を控えた伝法書である。現代でも口授されるもので、伝法書の内容は、浄土宗僧侶の間でも、あまり知られていない。「今回、『真葛傳語』の現代語訳を完成させ、浄土宗教師に限定して発行しました。既に僧侶としてご活躍の方々も、本書を通じて伝法を反芻することができれば、今後さらに自信をもって仏法を伝授していけるはずです」

訳本の作成においては、法然の思想や仏教に関連する言葉の意味を分析・解釈し、正確に捉えた上で、現代の人々に理解できる言葉に置き換えるところに難しさがある。「法然上人は、800年以上前に生きた人です。現存する文献は非常に少なく、史料の多くが写本や伝承に限られています。それだけに、解釈は多岐にわたります。研究成果を紀要や書籍で公開・発信することで、研究者同士の議論を活性化し、法然仏教学の研究全体の底上げに貢献するという意味でも、本研究センターの10年の取り組みは、極めて重要だと考えています」と成果を語る。

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法然仏教学の
世界的研究・情報拠点を目指し
さらなる研究と発信を続けていく

「10年を経て、法然仏教学研究の一つのモデルを構築できた」と手ごたえを語った曽和教授。現在では、佛教大学だけでなく、他大学の研究者が本研究センターの研究に参画する例も増加しており、着実に認知度は高まっている。さらに研究に携わった大学院生の中には、博士の学位を取得して研究者の道を歩み始めた人もおり、人材育成においても成果が表れている。

開設10周年を迎えた2024年は、記念企画を計画している。その一つとして、10月26日から12月7日まで、佛教大学宗教文化ミュージアムにて、「法然マニアな人々-佛教大学法然仏教学研究センターの10年-」と題した特別展覧会を開催。法然研究や浄土宗の関係者だけでなく、広く一般にも10年の成果を公開する。さらに11月17日には、「佛教大学法然仏教学研究センターの過去・現在・未来」をテーマに開設10周年記念シンポジウムの開催も予定している。

「研究課題は、いまだ数多く残されています。今後も研究を推し進めていきます。また研究成果やアーカイブをWEBサイトなどを通じて広く社会に発信していくことにも取り組んでいくつもりです」と今後を語った曽和教授。佛教大学法然仏教学研究センターを、日本のみならず世界の研究・情報拠点とするべく、さらに力強く歩を進めていく。

2024年10月更新

BOOK/DVD

このテーマに興味を持った方へ、
関連する書籍・DVDを紹介します。

  • 法然房源空述『逆修説法』岩谷隆法、吉原寛樹、齋藤蒙光、眞柄和人/佛教大学法然仏教学研究センター

  • 桑門秀我著『選擇本願念佛集講義』前篇(巻上・巻中)本庄良文、上野忠昭/佛教大学法然仏教学研究センター

  • 桑門秀我著『選擇本願念佛集講義』後篇(巻下本・巻下末)本庄良文、上野忠昭/佛教大学法然仏教学研究センター

  • 嵯峨正定院立道著『真葛傳語』(浄土宗教師限定)眞柄和人、高津晴生、武田真享/佛教大学法然仏教学研究センター

教員著作紹介

  • 現代語訳『安楽集』佛教大学法然仏教学研究センター(共著)

曽和 義宏
/ 佛教大学 法然仏教学研究センター センター長/仏教学部教授

SOWA Yoshihiro

[職歴]

  • 2001年4月~2007年3月 佛教大学・ 文学部・非常勤講師
  • 2007年4月~2010年3月 佛教大学・文学部・人文学科・講師
  • 2010年4月~2012年3月 佛教大学・仏教学部・講師
  • 2012年4月~2018年3月 佛教大学・仏教学部・准教授
  • 2018年4月~現在に至る 佛教大学・仏教学部・教授
教員紹介