#子ども#障害#健康

幼児期の運動が、身体・認知・
ストレスに
及ぼす影響を解明する。

青木 好子佛教大学 教育学部教授

Introduction

児期に活発に運動することが、身体はもちろん、精神や社会性の発達にも重要と考えられている。青木好子教授は、幼児期の子どもを対象に身体活動が心身の発達に及ぼす影響について研究し、子どもの豊かな成長に寄与する知見を提供している。

01

幼児期の身体活動や運動習慣が
その後の身体・精神・社会性の発達に影響を及ぼす

幼児期に培った体力や生活・運動習慣は、その後の身体的発達だけでなく、精神面や社会面の発達に大きな影響を及ぼす。

「幼児期から児童期の身体活動量や質は、それ以降の体力や運動能力、身体活動量はもちろん、肥満・やせなどの健康指標に影響を及ぼすとともに、その傾向が成人期にも移行し、生命予後にも影響があるという報告があります」と青木好子教授は言う。また認知的・精神的発達に運動がいかに重要であるかを示した研究も少なくない。「とりわけ認知機能の一つである『実行機能』は身体活動との関係が大きく、6歳から12歳までの児童期の子どもでは、一時的な短時間運動や長期的な身体活動が、実行機能にポジティブな影響を及ぼすという研究もあります」

幼児期に身体を動かすことが非常に重要であるにも関わらず、日本の子どもの運動量は減り続けており、その現状には文部科学省も懸念を示している。2012年に文部科学省が発表した「幼児期運動指針」の中では、幼児期における運動の意義として「体力・運動能力の向上」「健康的な体の育成」「意欲的な心の育成」「社会適応力の発達」「認知的能力の発達」の五つが挙げられ、幼児が多様な運動を経験できる機会を増やすことの重要性が示されている。

「では一体どのくらいどのような運動をするのが望ましいのでしょうか? 日本では、それらを導き出すために不可欠な幼児に関するエビデンスが圧倒的に不足しています」。そのため青木教授は、幼児を対象に身体活動に関するデータを収集し、体力や生活習慣、認知機能などとの関係について実証研究を積み重ねている。

02

幼児の身体活動と体力、
生活習慣との関係を調査

幼児の身体活動や生活習慣、認知機能に関するデータが少ないのは、その測定が非常に難しいことも理由の一つに挙げられる。青木教授は、研究を通じて貴重なデータを蓄積してきた。その一つとして、2015年から3年をかけて、幼児の身体活動と体力、生活習慣との関係について精緻な調査と分析を行っている。

関西エリアにある幼稚園や保育園などに在籍する幼児を対象に調査を実施。対象者に3軸加速度装置を内蔵した活動量計を2週間装着してもらい、1日あたりの歩数や身体活動レベル(PAL:総エネルギー消費量/基礎代謝量)、運動強度別活動時間(座位行動、低強度活動、中高強度活動の時間)から日常の身体活動量を測定。二重標識水法(DLW)という精緻な分析法を用いて身体活動量を精確に評価した。

また体力テストとして、立ち幅跳び、テニスボール投げ、25m走、両足連続跳び越し、体支持持続時間、握力、捕球の7種目を採用し、先行研究に準拠した方法で測定した。さらに生活習慣調査を行い、家族構成・家庭環境、健康状態、基本的生活習慣、習い事や食習慣、運動・遊び、スクリーンタイムなど多岐にわたる情報を収集した。「分析の結果、特に中高強度の運動が、身体活動レベルを高め、体力の向上につながることが示唆されました。これらの結果は、国際的な研究データとも合致するものでした」と言う。こうした研究知見を蓄積することが、幼児の妥当な活動量を考えるための確かな手がかりとなる。

03

認知機能や意欲、ストレス、免疫と
身体活動との関係を解明し
運動プログラムの開発につなげる

さらに2018年からは、体力、生活習慣に加えて、認知機能やストレス、免疫と身体活動との関連にも、研究範囲を広げている。

まず調べたのが、幼児の体力と、認知機能の一つである実行機能との関係だ。青木教授によると、実行機能とは、目的を達成するために、不適切な行動の制御(抑制機能)、切り替え(認知的柔軟性)、 更新(ワーキングメモリ)を行う高次の認知機能で、社会性にも関わる脳の機能の一つとされている。先述したように、日本では幼児期の子どもを対象に体力の観点から認知機能を検討した研究は、非常に少ない現状がある。

青木教授の研究では、7種目の体力測定(立ち幅跳び、テニスボール投げ、25m走、両足連続跳び越し、体支持持続時間、握力、捕球)と、実行機能(抑制機能、認知的柔軟性、ワーキングメモリ)を評価する3種類の課題(白黒課題、DCCS課題、ブロック再生課題)を実施した。「その結果、男児と女児それぞれ性別によって、実行機能に関係する体力の要素が異なることが明らかになりました」

続く研究では、身体活動量と精神的ストレス、免疫力、意欲(やる気)と関連についても調査している。これらを評価する客観的指標として唾液を採取。唾液中のコルチゾール濃度(精神的ストレス)、sIgA(分泌型免疫グロブリンA:免疫)濃度、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン:意欲)濃度を測定した。コロナ禍に、大人と小学生の児童、幼児を対象に身体活動量や唾液中のコルチゾール値やsIgA値を測定し、その関連を分析している。

最新の研究では、子どもの運動機会を増やすための運動遊びプログラムによる介入を行い、それが認知機能の活性化やストレス緩和、免疫機能や意欲にどのような効果をもたらすかについても検証しようとしている。

トランポリンを用いた独自の運動プログラムを開発。佛教大学附属こども園や岡山県にある保育園の協力を得て、2024年5月から11月にかけて、園児を対象に調査を実施し、現在分析を行っているところだ。

「子どもの認知機能や意欲、社会性を育む確かなエビデンスを有する運動プログラムを開発したい。それを保育の現場に提供し、子どもの心身の豊かな成長に貢献できたら嬉しいと思っています」と青木教授。研究を通じて、これからの幼児期の子どもの育成の大きな一助となる知見を提供し続けている。

2025年7月更新

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  • 京都市教育実践功績表彰(京都市教育委員会)

KEYWORD

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SDGsとの関わり

青木 好子/ 佛教大学 教育学部教授

AOKI Yoshiko

[職歴]

  • 1996年4月~2009年3月 京都市立小学校・特別支援学校・教諭
  • 2009年4月~2012年3月 平安女学院大学・短期大学部・准教授
  • 2013年4月~2015年3月 花園大学・社会福祉学部・専任講師
  • 2013年4月~2020年3月 同志社女子大学・現代社会学部・嘱託講師
  • 2015年4月~2022年3月 京都先端科学大学・健康医療学部・教授
  • 2022年4月~現在に至る 佛教大学・教育学部・教授
教員紹介