#こころ#家族#子ども

カウンセラーが保育の場に
「居る」意味とは?

牧 剛史佛教大学 教育学部准教授

Introduction

教大学臨床心理学研究センターでは、幼稚園およびこども園にカウンセラー(以下、園カウンセラーとする)を派遣する事業を展開している。特長は、カウンセラーが「保育活動に入っていく」こと。牧 剛史准教授は、園カウンセラーが日常的に「居る」意味を明らかにしている。

01

佛教教育学園の幼稚園・こども園に
カウンセラーを派遣

京都市にある佛教大学附属こども園には、週2日、園カウンセラーが通ってくる。驚くことにカウンセラーは、ただカウンセリングを行うのではなく、園児たちと遊び、おしゃべりし、一日を一緒に過ごす。

これは、佛教大学臨床心理学研究センターが2010年から継続している「幼稚園・こども園カウンセラー派遣事業」の一コマ。事業では、学校法人佛教教育学園の三つの幼稚園(佛教大学附属こども園、東山幼稚園、華頂短期大学附属幼稚園)に、園カウンセラーを派遣している。

「日本における少子化の背景には、さまざまな要因がありますが、『子育ての難しさ』も、その一つに挙げられます。とりわけ1990年代以降、子育て支援の重要性が認識されるようになり、国や自治体も施策を打ち出しています。そうした中で、心理臨床家として、保育の現場で困難に直面している保育者や、子育てに悩みを抱える保護者を支援しようとスタートしたのがこの事業です」と、現在センター長として事業の推進役を務める牧 剛史准教授が経緯を語る。

この事業の特筆すべき点は、先述の通り、園カウンセラーが「保育活動の中に入っていく」ことにある。牧准教授によると、それまで幼稚園カウンセリングは、保育者と保護者の支援に重点が置かれてきた。大阪府でも大阪府私立幼稚園連盟が、幼稚園に「キンダーカウンセラー」を派遣する事業を展開しているが、その多くは、カウンセラーが定期的に各園を回る巡回形式だ。「一方、本事業の園カウンセラーは、保育の場に日常的に『居る』ことを重視しています。しかもただ観察するだけでなく、子どもたちと関わり、先生とも頻繁に話し合います」と言う。

02

「臨床の視点」と「教育の視点」の
両方を意識し
カウンセリングから
コラボレーションへ

牧准教授は、20年以上にわたり、中学校・高校でスクールカウンセラーを務めてきた。その経験から、「重要なことは、幼稚園こども園カウンセリングにも共通しています」として、「臨床の視点」と「教育の視点」の両方の重要性を指摘する。

「心理の専門家である臨床心理士と、教育・保育のプロである幼稚園教諭や保育士では、幼児に向ける視線も、関わり方も異なります。子どもと正面から向き合い、想い・願いを伝えて進むべき方向へと『導く』のが『教育の視点』だとすれば、子どもと同じ方向に視線を向け、心の表現を受けとめ、やや後ろから『ついていく』のが『臨床の視点』です。保育者もカウンセラーも、どちらか片方ではなく、両方の視点を意識することが大切です」と、指摘する。

保育者とカウンセラーが互いに視点の違いを理解し合うことで、次第に「保育者がカウンセラーからコンサルテーションを受ける」という一方向の関係だけでなく、両者が「共に」保育に取り組む「コラボレーション」へと関係が変化していく。「事業を進める中で、それを強く感じるようになりました」と、牧准教授は手ごたえを語る。

03

カウンセラーが日常的に
「居る」ことが
重要な意味を持つ

園カウンセラーが日常的に保育の現場に「居る」と、一体何が良いのだろうか。牧准教授は、子ども・保護者・保育者、そしてカウンセラーそれぞれに大きな意味があると説明する。

まず子どもにとっては、「先生とは少し違う存在」としてカウンセラーが「居る」意味があるという。「先生とは異なる視点や姿勢で関わる存在がその場にいることで、先生には見せない一面を見せることがあります」と牧准教授。そうした情報を先生と共有することで、子どもへの理解をより深めることができるわけだ。また園カウンセラーが間に入ることで、集団に入ることに不安を覚えている子どもがみんなの輪に入れるようになるなど、子どもの対人関係能力の発達を促進することもある。

一方、保護者にとっては、「日常的に相談できる存在」であり、特に「子どもの日頃の姿を知っている人に相談できる」という点で、カウンセラーの「居る」意味は大きい。「カウンセリングルームのような改まった場だけでなく、子どもを迎えに来園した際に、些細なことも話せる存在がいると、安心感があります」と言う。

また「日常的に相談し、サポートを受ける存在」が身近に「居る」心強さは、保育者にとっても同様だ。保育者や子どもと同じ現場に「居る」ことで、話を聞いて想像するのではなく、リアルな場面を共有できるため、より早くかつ適切な支援が可能になる。

さらにカウンセラー自身にとっても、現場に「居る」ことは重要な意味があるという。牧准教授は、「日常的な保育の中に入る」経験をした園カウンセラーを対象に調査を実施。カウンセラーが語った主観的体験を分析し、心理臨床家が幼稚園に「居る」ことの意義を明らかにした。その中で、「幼稚園・こども園カウンセリングは、心理臨床実践の基本を省察し、心理臨床家としての通過儀礼になる貴重な体験を得られる」という大きな意義を見出した。

日常的にカウンセラーを配置する幼稚園は、全国でもまだ少ない。実践に基づく牧准教授の研究は、その意義を考える上で貴重なエビデンスを提供する。「今後さらに研究を積み重ね、研究知見を広く発信していきたい」。牧准教授の実践と研究が、日常的な幼稚園・こども園カウンセリングの普及につながっていく。

2026年1月更新

BOOK/DVD

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教員著作紹介

  • 『教育相談と学校臨床(教職教養講座)』協同出版(分担執筆)

  • 『新しい教育事情』私立大学通信教育協会編(分担執筆)

  • 『徹底図解臨床心理学』新星出版社(分担執筆)

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牧 剛史/ 佛教大学 教育学部准教授

MAKI Takeshi

[職歴]

  • 2003年4月~2004年3月 京都大学大学院・文学研究科・COE研究員
  • 2004年4月~2005年3月 佛教大学・臨床心理学研究センター・契約専門職員
  • 2005年4月~2010年3月 佛教大学・教育学部・講師
  • 2010年4月~現在に至る 佛教大学・教育学部・准教授
教員紹介