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社会的養護で育まれた「人」との関係は
その後を生きる支えとなる

伊部 恭子佛教大学 社会福祉学部教授

Introduction

会的養護を経験した人が、その後の生活のなかで様々な困難や社会的孤立に直面するという現実がある。伊部恭子教授は、当事者への聴き取り調査から、社会的養護における支援において何が重要なのかを考え続けている。

01

社会的養護のケアを離れることが、
社会的孤立の入り口になってはならない

さまざまな事情で保護者のいる家庭で生活することが困難な子どもに対し、公的責任として社会でその養育を保障する「社会的養護」という仕組みがある。日本では、児童養護施設をはじめとした施設の他、里親委託やファミリーホームなどがその役割を担っている。しかし「社会的養護を経験した子ども・若者の中には、ケアを離れた後も、生活困難や社会的孤立に直面するなど、生きづらさを抱えることが少なくありません」と、伊部恭子教授は言う。

伊部教授は、子どもの生活と自立の歩みを支える社会福祉援助に関心を持ち研究している。これまで社会的養護の経験がある人々を対象に、生活史の聴き取り調査を実施。その生活や家族関係・社会関係に着目し、社会的養護における支援の課題を考察してきた。

児童養護施設などで社会的養護を経験した人々に対し、2007年以降行った聴き取り調査では、「社会的養護が、子どもの命をまもり、安心・安全な生活環境と養育を行い、生活と自立を支援する重要な役割を果たしていると改めて気づくことができました」としつつ、ケアを離れた後の生活状況や家族関係・社会関係において、さまざまな困難や課題を生じていること、相談先や拠り所がないためにより深刻さが増したり、危機に陥る場合があることを明らかにした。

「社会的養護を経験した期間よりも、その後に続く人生の方がずっと長い。心身の健康の不調やトラウマなど、社会に出てから辛さやしんどさが顕在化することもあります。現行の児童福祉制度の枠組みに留まらず、社会的養護のケアを離れた後、成人期以降も、一人ひとりのニーズに応じた継続的な支援や社会関係、場が必要です」と話す。

02

気にかけてくれた、
親身になってくれた記憶が
自分の人生を生きる一助となる

社会的養護をめぐる課題に言及した研究は少なくないが、伊部教授はそのポジティブな側面に光を当てることで、社会的養護の課題解決に新たな視座を提示しようとしている。その一つが、2007年以降の聴き取り調査から6~10年を経て実施した追調査だ。最初の調査の約半数に当たる15人に新たな聴き取りを実施し、施設退所後の生活を振り返って、「どのようなところから力をもらってきたのか」「どのようなことが支えになっているのか」を探った。

「お話をうかがった方々は、それぞれの生活で転職や異動に伴うストレスや不安、心身の不調・疾病、事故、経済的なこと、人間関係に関する困難や子育ての大変さなどを抱えながらも、誰かとつながっていたり、何らかの支えを得ていたり、日々のちょっとした楽しみがあったり、これからの夢や目標があったりしていました」と伊部教授。とりわけ注目したのが、「今も支えになっていること」として、15人全員が「施設にいた頃、職員が自分を気にかけてくれた」という記憶を持っていたことだった。「ほめてくれて叱ってくれて」「親代わり」「親身になってくれた」などの愛情を受け取っていたことや、「私の気持ちを尊重してくれた」といった人間の尊厳やその人らしさが大切にされている「語り」があった。「施設入所中に力をもらったり、支えとなった経験の記憶が、今もその方の生・生活の営みを支える源になっていること、またそうした経験が、今度はご自身が何か・誰かのために役立ちたいという思いや行動につながっていることが示唆されました」と言う。

こうした分析から見えてくるのは、社会的養護の期間において本人にとってかけがえのない誰かの存在がいかに重要であるかということだ。「気持ちを受けとめてもらったり、愛情をもって接してくれたり。そうした経験は、その人のかけがえのなさや生そのものを肯定し、生きる力の源になります。それが日々の生活の営みのなかで感じられると、安心につながり、自分らしさが育まれていくのではないかと思います」と考察する。

03

子どもとともに考え、
社会全体で子どもを養育するという視点

最近では、社会的養護のもとで育ち、措置解除になった子ども・若者を対象とした全国調査(2020年実施)にも研究班の一員として携わっている。

調査は2020年11月から2021年1月にかけて行われた。児童養護施設等のケアを離れた20,690人を対象としたが、対象者の内の回答率は14.4%にとどまった。今後の支援のあり方を検討する上で、回答率の低さについては丁寧に要因や背景を検討する必要があるものの、「回答を寄せてくださった人々の声を無駄にしてはならないと思っています」と言う。

伊部教授は、自由記述回答欄への回答内容を分析し、支援のあり方を考察している。

それによると、ケア過程においては、「当事者の生・生活を退所後も含めた『連続性』で捉えることの重要性や、親身な人との関わりが本人の力になること」が示されたという。これらの結果は、伊部教授が行ってきた聴き取りによる質的調査を裏づけるものだ。

「信頼を寄せられる人、『この世に生きていていいんだ』と思わせてくれる人がいたという経験が、その後を生きる支えになっていくのではないかと思います。それには、社会的養護の担い手だけでなく、『社会で子どもを養育していく』という視点に立ち、一人ひとりの子どもにとっての最善の利益を、子どもとともに考えていく営みが大切ではないでしょうか」と強調した伊部教授。「当事者の方に学び、ともに考えていくなかで、現場で力を尽くされている方々や環境のエンパワーメントにも寄与していきたい」と、自ら任じている。

2024年6月更新

BOOK/DVD

このテーマに興味を持った方へ、
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教員著作紹介

  • 『「そだちあい」のための社会的養護』ミネルヴァ書房(分担執筆)

  • シリーズ みんなで育てる家庭養護③『アセスメントと養育・家庭復帰プランニング』石書店(分担執筆)

  • 『社会的養護経験者がふりかえるケアに関する評価―全国調査の自由記述回答から―』佛教大学社会福祉学部論集

  • 『社会福祉実践における主体性を尊重した対等な関わりは可能か―利用者-援助者関係を考える―』ミネルヴァ書房(分担執筆)

  • 新・基礎からの社会福祉②『ソーシャルワーク』ミネルヴァ書房(分担執筆)

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伊部 恭子/ 佛教大学 社会福祉学部教授

IBE Kyoko

[職歴]

  • 2001年4月~2006年3月 佛教大学 講師
  • 2006年4月~2015年3月 佛教大学 准教授
  • 2015年4月~現在に至る 佛教大学 教授
教員紹介

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