#ケア
訪問看護師の思考プロセスを可視化し
判断力を養うトレーニング法を構築
清水 奈穂美佛教大学 保健医療技術学部准教授
Introduction
訪問看護師は、在宅看護の現場で、一人で複雑な状況を見極め、的確に判断することが求められる。清水奈穂美准教授は、そうした訪問看護師の思考プロセスを可視化。在宅ケアでの判断力をトレーニングする方法を考案した。
訪問看護師は現場で
何を見て、何を考え
どのように判断して
ケアを組み立てているのか
在宅医療や看護教育の現場で、注目を集めている書籍がある。それが、『在宅ケアのための判断力トレーニング―訪問看護師の思考が見える』(2022、医学書院)だ。
本書を執筆した清水 奈穂美准教授は、看護師として在宅看護や地域医療に携わった後、学位と在宅看護専門看護師の資格を取得。現在は、看護に関する研究と教育に尽力している。「大学の訪問看護実習で、学生に訪問看護の実践の意図が十分に伝わっているだろうかと疑問に感じることがありました。それが、執筆を考えたきっかけです」と明かす。
「病院から在宅へ」の流れが加速する日本の医療にあって、在宅看護のニーズは高まり続けている。しかし訪問看護師としての実践力は、一朝一夕に身につくものではない。「訪問看護師は、一人で療養者の元を訪れ、限られた時間の中で多様な状況を見極め、的確な判断を下さなければなりません。価値観や生活環境、家族関係が多様化する現代にあって、複数の疾患を抱える患者も少なくない。そうした複雑な状況に直面しながら、難しい判断を迫られます。そんな力を訪問看護実習で学生が自力で習得するのは容易ではありません」
では実際訪問看護師は、在宅看護の現場で何を見て、何を考え、どのように判断しながらケアを組み立てているのか。清水准教授は、訪問看護師の「思考と判断のプロセス」に着目し、その道筋を可視化。訪問看護認定看護師や在宅看護専門看護師など訪問看護の専門家と情報共有し、それまで「経験知」としてしか語られてこなかった、訪問看護師たちの実践を「形式知」とした、画期的な「判断力トレーニング法」をつくりあげた。
手がかりを感じとる、
見えないことを推論する
考えを言葉にする、
余計なことをしすぎない
清水准教授は、訪問看護師の現場での判断を支える力として、「手がかりを感じとる力」「見えないことを推論する力」「考えを言葉にする力」、そして「余計なことをしすぎない力」の四つを養う必要性を挙げる。
「在学看護にあたっては、まず在宅療養者がどのような価値観や暮らしを大切にしているのか、情報を収集する必要があります。そのためには対象者に関心を寄せ、その人のことを知ろうとする姿勢が不可欠です。何かに気づき、疑問を持つことで訪問看護師の『思考』のスイッチが入ります」と言う。
次に大切なのが、「見えないことを推論する力」だ。訪問看護師は、24時間療養者のベッドサイドにいることはできない。だからこそ、気づいた情報をまとめ、見ることのできない時間について、療養者の病状と生活の変化を関連づけながら推論を重ね、予測的判断を行う力が求められるという。
それに加えて、訪問看護師には、目の前の相手と対話を積み重ね、療養者の症状を聞き出したり、セルフケアの力を引き出すことが求められる。そのために必要なのが、「自分の考えを言葉にできる力」だ。
そして最後が、「余計なことをしすぎない力」。「訪問看護師は、専門家としての価値観に基づいてケアするだけでなく、対象者の力を信じ、その判断を待って背中を押すことや、介入したい思いを手放して、撤退する覚悟も必要です」と説明する。
これら四つの力を統合し、最後に療養者と家族にとって最善解を導き出す。そこでは、多職種と共同し、意思決定を共有することが重要になる。「在宅看護において、『正解』を持っているのは、常に療養者本人とそのご家族です。療養者とご家族が本当に望む生き方を実現する。そこに立ち返り、多職種が一丸となって、それを支えていくことが大切です」
書籍では、具体的な事例を示し、紙上シミュレーションの形式で、「手がかりを感じとる力」から「最善解を導く意思決定の共有」まで学んでいけるようになっている。事例の途中には適宜「問いかけ」が挿入され、読者が考えながら、判断力をトレーニングしていけるのも特徴だ。「これを読んだ訪問看護師が、自分の思考プロセスを後から振り返る(リフレクション)ことができるよう工夫しました」と言う。
さらには、「臨床推論」や「臨床判断モデル」「Stop and Think」の考え方など、理論的な情報も盛り込む他、「自律的な学びを支えるもの」として、「認知バイアス」や「リフレクション」「心理的安全性とアンラーニング」などにも言及している。
疾病と、療養者らしい生き方
その両方を大切にする支援を
行うのが訪問看護師
清水准教授は、判断力トレーニングモデルをつくり上げた後、初任期の訪問看護師を対象にトレーニングを実施。訪問看護師としての判断力・実践力が高まることを確かめた。
2022年の発売から数年を経た現在も、「こんなトレーニング法を待っていた」という声は増え続けている。現在清水准教授は、中堅期や管理者初任期など、キャリアを積み重ねた訪問看護師向けの判断力トレーニングプログラムも研究開発しようとしている。
「疾病も、そして療養者の生活・生き方も、両方大切にする支援を行うのが訪問看護師の役割です」と、清水准教授。しかし命を守るための判断と療養者の望みが相反することも少なくない。また終末期のケアでは、倫理的な問題をはらむ難しい判断を求められることもある。「どれだけ経験を積んでも、判断に迷わない訪問看護師はいません。しかしそれを難しいと諦めるのではなく、『面白さ』に変えてほしい」と願いを込めた清水准教授。療養者とそのご家族の人生に寄り添う伴奏者になる。そんな訪問看護師を育てようと、情熱を注いでいる。
BOOK/DVD
このテーマに興味を持った方へ、
関連する書籍・DVDを紹介します。
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『家でのこと ―訪問看護で出会う13の珠玉の物語』高橋恵子/医学書院
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『恐れのない組織 ―「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』エイミー・C・エドモンドドン(野津智子 訳)/英治出版株式会社
教員著作紹介
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『在宅ケアのための判断力トレーニング:訪問看護師の思考が見える』 医学書院
表彰
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第20回佛教大学学術賞
自然科学部門 著書名:『在宅ケアのための判断力トレーニング―訪問看護師の思考が見える』
清水 奈穂美/ 佛教大学 保健医療技術学部准教授
SHIMIZU Naomi
[職歴]
- 1994年4月~2001年3月 東京女子医科大学病院(放射線科臨床腫瘍部 病棟勤務)
- 2002年9月~2012年6月 淀川キリスト教病院(病棟勤務、訪問看護ステーション)
- 2017年6月~2021年3月 滋賀医科大学医学部・看護学科公衆衛生看護学講座・特任助教
- 2021年4月~2022年3月 滋賀医科大学医学部附属病院看護臨床教育センター・特任助教
- 2022年4月~現在に至る 佛教大学・保健医療技術学部・准教授

