#ケア#家族#こころ

大切な人を看取り、生きていく。
「喪失」のその後の生き方を問う。

渡邉 照美佛教大学 教育学部准教授

Introduction

切な人を亡くす。そうした死別や悲嘆に関する従来の研究の多くは、そのネガティブな側面ばかりが注目されてきた。渡邉照美准教授は、中年期以降の喪失後の生き方を新たな視点で捉え直そうとしている。

01

喪失を経験した人がその後の人生をどう生きるのか

人は生きていく中でさまざまなライフイベントに遭遇する。大人になってからは、結婚や出産、子どもの成長や自分自身の昇進など良いできごとがたくさんある一方で、年を重ねるとともに病気になったり、友人や配偶者、親と死に別れたりといった悪いできごとを経験することも増えていく。

「心理学的にいえば、成人期を過ぎるとそれまでのライフステージに比べてより多くの『喪失』を経験することになります」。そう説明するのは渡邉照美准教授だ。「生涯全体を通して発達を考える」という生涯発達心理学を専門にする准教授は、特に中年期以降、身近な他者を死別で喪失した後の発達や成長に関心を抱いている。

渡邉准教授によると、発達心理学の分野では多くの場合「喪失」は病理と関連付けられ、ポジティブに捉えた研究の蓄積は少ないという。「身近で大切な人を亡くすのは悲しく辛い経験です。しかし生涯発達というスパンで考えれば、喪失した後の生き方によってその捉え方は変わるかもしれません。喪失を経験した人が、それとどう向き合い、その後の人生をどう生きていくのかを明らかにしたいと考えています」として、生涯発達心理学の見地から「喪失」という一見ネガティブなイベントを「発達」や「成長」というポジティブな側面から捉え直す研究に取り組んできた。

これまでの研究では、がんで近親者を亡くされた方の協力を得て、質問紙調査や面接による聞き取り調査を行っている。その結果をもとに、「死別に対して積極的に関与したか」、また「死別に対して自らを主体的に位置づけているか」という2つの観点で死別の捉え方を分析。「Ⅰ積極的関与成熟型」「Ⅱ看取り後関与成熟型」「Ⅲ関与現状維持型」「Ⅳ無自覚型」「Ⅴ悲嘆型」の5つに分類した。

さらに被験者の語りを分析したところ、死別経験後により多くの肯定的な変化(人格的成長)が認められたのはⅠとⅡで、ⅢやⅣでは肯定的な変化を示す語りはほとんど認められなかったという。「つまり死別経験後の肯定的な変化には、死別に対して主体的な位置づけがなされたかや、死別に積極的に関与したかが関係するという結論を得ました」。

02

肯定的変化だけではない
喪失経験後の生き方を捉え直す

渡邉准教授の研究はここで終わらなかった。「面接に協力してくださった方は皆、真摯に看取りと死別の経験を語ってくださり、ⅢやⅣと分類された方もしっかり日常に適応して生きておられました。にもかかわらず、肯定的変化がないと結論づけたことに心残りがありました」と渡邉准教授は言う。先の研究は面接で准教授がつかんだ感覚と語りを十分表現できていないのではないか。そうした思いから、家族を介護した後に亡くされた方の心理変容プロセスを改めて解明しようと試みた。

その際着目したのが、「レジリエンス」という視点である。レジリエンスとは、「回復力」や「弾性」を表す言葉で、強風に吹かれて樹木が枝をしならせながらも、やがて元にもどっていく様に例えられることが多い。渡邉准教授は「強風に吹かれても、樹木が枝をしならせることもしない、つまり死別を日常の中で起こりうる人生の一過程と受け止める泰然自若とした状態もあるのではないか。そんな発達観もあるのではないかと考えました」。

「レジリエンス」の視点から以前の調査を再分析し、以前は肯定的変化がないとしたⅢやⅣであっても、環境の変化に柔軟に適応し、喪失を語れること自体が死別後のレジリエンスであると位置づけ直した。「死別を自己を揺るがす重大なできごととして捉え、その肯定的変化に着目するだけでなく、もっと自然な人生のできごとの一部としてとらえ直して考えたい」と渡邉准教授は語る。

03

青年期に家族を介護するとは?
若年ケアラーの課題に着目

さらに渡邉准教授は、佛教大学で教壇に立つ日々から、中年期だけでなく青年期・成人前期に家族を介護したり、時には看取りも経験するヤングケアラーの存在にも目を向ける。ヤングケアラーは日本では一般に18歳未満を指すが、渡邉准教授は年齢幅を広げ、ヤングケアラーとヤングアダルトケアラーを含めて「若年ケアラー」と呼ぶ。

「家族にケアを必要とする人がいる家庭では、家計を支えるために両親が働きに出て、子どもがケア責任を引き受ける場合が少なくありません」と渡邉准教授。こうした若年ケアラーの課題は、この世代が介護や家事役割を果たすと想定されていないことにあるという。「同世代の友達が自己や将来を構築していく時に、人知れずケア役割を担わなければならない。それがさまざまな形で若年ケアラーの孤立化を生んでいます」と懸念する。

渡邉准教授はまず数千人規模の調査を実施し、若年ケアラーの実態把握を試みようと計画している。それをもとに若年ケアラーのケアのタイプを分類し、タイプごとの課題を浮き彫りにしたいという。

「学校の教員がヤングケアラーの存在を知らないために、必要な支援につながっていない現状があります。そうした学校教育の現場にヤングケアラーの存在を周知していくことにも力を注げたら」と渡邉准教授。研究を通じて社会の中で見落とされてきた人や課題を「見える化」することで、社会を変える一助となるのも役割と任じている。

BOOK/DVD

このテーマに興味を持った方へ、
関連する書籍・DVDを紹介します。

  • 「はじめての死生心理学-現代において死とともに生きるー」川島大輔・近藤 恵(編)
    新曜社

  • 「ヤングケアラー-介護を担う子ども・若者の現実」澁谷智子(著)
    中央公論新社

  • 『親を、どうする?』小林裕美子(著)、滝乃みわこ(原作協力)
    実業之日本社

  • 『おくりびと』 本木雅弘 (出演)、広末涼子 (出演)、滝田洋二郎 (監督)

教員著作紹介

  • 『新しい教職教育講座 教職教育編12 教育相談』(編著)ミネルヴァ書房

  • 『新しい教職教育講座 教職教育編5 特別支援教育』(共著)ミネルヴァ書房

  • 『質的心理学辞典』(共著)新曜社

  • 『世代継承性研究の展望-アイデンティティから世代継承性へ-』(共著)ナカニシヤ出版

  • 『障碍のある子どものための教育と保育④障碍のある子どものための「文字・数」学習』(編著)ミネルヴァ書房

  • 『夫と妻の生涯発達心理学-関係性の危機と成熟-』(共著)福村出版

  • 『はじめての死生心理学-現代において死とともに生きるー』(共著)新曜社

  • 『障碍のある子どものための教育と保育③エピソードで学ぶ障碍の重い子どもの理解と支援』(編著)ミネルヴァ書房

  • 『シリーズ生涯発達心理学1 エピソードでつかむ生涯発達心理学』(共著)ミネルヴァ書房

KEYWORD

  • ケア
  • 家族
  • こころ
全てのキーワードを見る

SDGsとの関わり

渡邉 照美/ 佛教大学 教育学部准教授

WATANABE Terumi

[職歴]

  • 2006年4月~ 2008年3月 くらしき作陽大学食文化学部講師
  • 2008年4月~ 2012年3月 くらしき作陽大学子ども教育学部講師
  • 2012年4月~ 2013年3月 くらしき作陽大学子ども教育学部准教授
  • 2013年4月~現在に至る 佛教大学教育学部准教授
教員紹介