#マイノリティ#ジェンダー#地域
マイノリティが生きやすい社会とは?
男性運動、地域活動から探究する。
大束 貢生佛教大学 社会学部准教授
Introduction
女性、男性、マイノリティ、そうした属性に捉われることなく誰もが生きやすい社会とはどのようなものだろう? 大束貢生准教授はその答えを探して、男性運動やボランティア活動を研究している。
男性運動からサービス・ラーニングまで
ボランティアは社会を変えられるか
なぜ、「男」は「男らしく」なければならないのか?
「女性らしさ」を求める社会の中で、女性が被る不平等を解消しようとする努力が長きにわたって続けられてきたが、一方で「男らしさ」が求められる男性の生きづらさや社会の厳しさにはこれまであまり目が向けられてこなかった。「しかし女性が活躍する社会をつくるためには、男性も変わる必要があります」。そう語るのは、ジェンダー論を専門として男性問題に着目する大束貢生准教授だ。これまで男性運動について研究し、現在は男女平等が進む北欧の国スウェーデンに焦点を当て、女性の社会参画が進む過程で男性たちがどのような課題を抱え、どう生き方を変えてきたのかを明らかにしようとしている。
こうした研究の中で関心を深めたのが、大束准教授のもう一つの研究の柱であるボランティア論だ。「社会運動と同じく市民の自発的な行動に依拠するボランティア活動は、果たして社会を変えられるだろうか」という問いから出発し、学校教育にボランティア活動を取り入れた「サービス・ラーニング」にも射程を広げている。
大束准教授によると、サービス・ラーニングは社会貢献活動への参加を通じて地域社会に対する責任感や市民性などを養う教育手法だという。こうしたサービス・ラーニング的な手法は、小学校から大学までのさまざまな学校で実施されているが、大学で行った調査からは「強制的な活動は自発的なボランティア意欲には結びつかないことが分かりました」と言う。これを展開させ准教授は、東京都立高校でサービス・ラーニングを取り入れた教科「奉仕」の教育実践を検討し、受講生のボランティア活動への意欲、地域社会への責任感や市民性を高める要因について調査を行ってきた。
サービス・ラーニングが
地域にもたらすメリットを考える
また大束准教授は、サービス・ラーニングが学習の主体である生徒だけでなく、それを受け入れる地域社会にどのようなメリットをもたらすのかにも関心を寄せる。学習の主体とサービスの提供者である学校、さらにサービスの受け手である地域住民、行政・福祉団体・NPO法人などの外部セクターそれぞれのメリットを検討した研究では、サービスの受け手である福祉団体やNPO団体から「団体の活動に対する生徒たちの理解が深まった」といった肯定的な意見を引き出している。「しかしこれらは個々の団体のメリットに留まっており、地域の活性化など地域社会にメリットをもたらすまでには至っていないという課題も見えてきました」と言う。
こうした問題意識から、大学教育で近年増えている「アクティブ・ラーニング」にも注目。大学のアクティブ・ラーニング型授業で学生が地域活動に取り組むことで、地域社会にどのような利点・メリットが期待されるのかを考えている。「先行研究をまとめたメリットのひとつは『学生の頑張りに地域の人々が奮起される』ことです。それが、地域づくりについて改めて考えたり、地域資源を再認識するきっかけになる他、地域住民同士のコミュニケーションの活性化や地域資源を維持するモチベーションの向上にもつながることが期待されています」と言う。こうした利点・メリットがどのようなプロセスを経て地域活性化に結びつくのかについて研究を進めている。
さらに現在、大束准教授自身が佛教大学でアクティブ・ラーニングの授業を担当し、実践研究を行っている。京都府京丹後市丹後町の豊栄地区で「地場産業の丹後ちりめんの振興」という地域課題の解決に取り組むアクティブ・ラーニングを実践し、学生と地域社会、双方のメリットを検証しようとしている。
マイノリティが生きやすい社会をどうつくるか
大束准教授の視座はさらに広がりをみせている。最近の研究では、「コミュニティ・スクール」に着目し、学校を中心とした地域活性化の可能性について追求している。
コミュニティ・スクールとは、「保護者や地域住民等がともに知恵を出し合い学校運営に意見を反映させることで、一緒に協働しながら子供たちの豊かな成長を支え『地域とともにある学校づくり』を進める仕組みである(文部科学省 2018b)」という。「そこで欠かせないのが『ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)』です。これは『信頼』『規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴を示す考え方。地域の人々がコミュニティ・スクールを中核として有機的につながり、ソーシャル・キャピタルを創ることが、地域活性化に結びつくのではないかと考えています」と語る。
「研究を通じて得た知見を地域にお返しすることも研究者の役割」と言う大束准教授。関わった地域の住民や団体にアドバイスしたり、行政への政策提案によって地域に還元することも続けている。
男性問題からサービス・ラーニングまで、幅広く研究する中で一貫して考えているのが、「マイノリティを含め、あらゆる人が生きやすい社会をどうつくるか」。だれもが自分らしく生きられる社会の実現に貢献するべく、研究・教育に取り組んでいる。
BOOK/DVD
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教員著作紹介
『地方自治の社会学』自費出版
『日本官僚制の連続と変化(ライフコース編)』ナカニシヤ出版
『新編 日本のフェミニズム12 男性学』(共著)岩波書店
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