#歴史#国際#日本

大航海時代、東方を目指した
旅行者に学ぶ異文化理解。

アイシュワリヤ・スガンディ佛教大学 文学部講師

Introduction

西文化交流史を研究するアイシュワリヤ・スガンディ講師。大航海時代に西洋から日本を目指した人々の残した文献から、古今東西変わらない異文化理解の重要性を説く。

01

16世紀後半、東方を歩いた旅人が見つけた東西文化の共通点

グローバル化が進む現代、異文化理解はいかにも今日的な課題に思われるが、人が移動して未知の文化と出会う営みは、はるか古の時代から行われてきた。

東西文化交流史を専門とするアイシュワリヤ・スガンディ講師は、とりわけ16世紀から17世紀に西洋から東洋に向かった人々に焦点を当て、旅行記、紀行文、地図などの詳細な分析を通して人々の異文化理解の足跡を明らかにしている。

大航海時代、ヨーロッパの列強国の探検家や商人、宣教師など、さまざまな人がユーラシア大陸を海路と陸路の両方で横断し、未知なるアジアの国々、なかでも日本を目指した。「現代を生きる私たちは、海も国も飛行機で飛び越え、新しい文化に触れることができます。しかし16世紀の旅人たちは、自らの足で歩きながら時間をかけて未知の文化を知り、咀嚼しました」と語り始めたスガンディ講師。「新しい文化にいきなり飛び込むと、最初に目に留まるのは自らの文化との『相違点』です。しかしゆっくり歩きながら眺めると、次第に『共通点』が見えてきます。16世紀に東方を旅した人に焦点を当てる理由は、そこにあります」と語る。特に関心を持って研究しているのが、戦国から安土桃山時代にかけての日本で宣教したイエズス会の宣教師ルイス・フロイス(Luis Frois,1532年~1597年)の著作だ。

ポルトガルのカトリック教会の司祭だったフロイスは、織田信長や豊臣秀吉とも親交を結び、日本の社会や文化を西洋のそれと比較的に記した書物を著した。スガンディ講師はそれらを読み解き、フロイスのまなこに映った日本について分析してきた。

02

イエズス会士が記した日本の慣習を
理解するためのガイドブックを分析

最近の研究では、フロイスに続いて日本を訪れたイエズス会宣教師・アレッサンドロ・ヴァリニャーノ(Alessandro Valignano,1539年~1606年)の著作物にも注目している。「ヴァリニャーノは、文化を無視して異国での布教を成功させることはできないと考え、宣教に訪れた国々の社会や文化に適応しようと努力しました。日本には三度訪れ、自身の経験やフロイスの著作を参考に、イエズス会士が宣教するためのガイドブック『日本イエズス会士礼法指針』を執筆しました」。スガンディ講師はこの『礼法指針』を分析し、ヴァリニャーノの日本文化に対する驚くほどきめ細かな理解について明らかにしている。

アレッサンドロ・ヴァリニャーノ(1599年)Unknown author / CC BY 4.0

『礼法指針』には、服装や食事、ふるまい方などの礼儀作法が実に細かく示されているが、特筆すべきは、日本における贈り物の慣習についての記述だという。書物には、宣教師が大名や武将などに接見する際、どのような贈り物を持参するのがふさわしいか、社会的地位や時節別に細かに記されている。「例えば最も地位の高い人には、徳利の酒、酒の肴や果物、次の地位の人には樽酒や食籠、餅、また正月には日本人にとって縁起の良い昆布やスルメを、というように、記述は極めて具体的です。それだけでなく、差し出す際の品物の並べ方や包装の方法にまで言及しています。ヴァリニャーノが日本社会で円滑にコミュニケーションをとるために礼儀作法がいかに重要であるかを認識し、真摯にその理解に努めたことが伺えます」とスガンディ講師。こうしたヴァリニャーノの姿勢は、現代のグローバル社会における異文化コミュニケーションにも示唆と教訓を与えてくれるという。

03

ルネサンス後期のイギリスが捉えた日本像に迫る

現在スガンディ講師が関心を向けているのが、ルネサンス後期のイギリスである。「16世紀、ポルトガル・スペインといったイベリア勢力やオランダがいち早く極東に進出していったのに対し、イギリスは後れを取った感があります。日本との直接的な交流も10年ほどしかありませんでした。しかし先発の国々と違って、災害や戦禍を免れ、現在も膨大な日本関係の史料が残っています」と、イギリスに着眼した理由を語る。こうした16世紀後半からおよそ1世紀の間に成立した日本関連の文献や図像を手がかりに、当時のイギリス社会において日本という極東の島国がどのように捉えられたのか、日本像の特徴と変遷を追究しようとしている。

とりわけ本研究の独創的な点は、イギリスの政治・文化・社会状況、ヨーロッパ・アジア諸国との関係など、多様な文脈と関連付けて分析するところにある。「当時イギリスで出版された日本関連の印刷物を広く網羅し、日本を実際に訪れたイエズス会士や商人、また書物のなかでしか「日本」に触れられなかった人々(「アームチェア・トラベラー」)など、多様な人の目を通して立体的で多面的な日本像を描き出したいと考えています」と。新しいパースペクティブから知られざる日本像が浮かび上がるかもしれない。

スガンディ講師自身もインドから来日して20年、日本で教育・研究を続けるにあたり、日本という異文化の理解に努めてきた。なかでもコミュニケーションに欠かせない言語や文字に対する造詣は深い。20年にわって書道を続けているのもその一つだ。

一方、大学教員として日本人の異文化理解を促進するべく英語教育にも力を注ぐ。重視するのは、学生それぞれの関心や専門から英語や異文化にアプローチすることだ。「例えば文学部の授業では、好きな文学作家や作品について英語でプレゼンテーションをさせたり、看護学科では、外国人の患者を看護する際に役立つ英語を学ぶなど、実践を通じて異文化への関心を高める学びを大切にしています」と語るスガンディ講師。研究と教育、そして自らの実践を通じ、古今東西の異文化理解に尽力し続ける。

2021年7月更新

BOOK/DVD

このテーマに興味を持った方へ、
関連する書籍・DVDを紹介します。

  • 『フロイスの見た戦国日本』川崎桃太/中央公論新社

  • 『クアトロ・ラガッツィ : 天正少年使節と世界帝国』若桑みどり/集英社

  • 『イエズス会がみた「日本国王」 : 天皇・将軍・信長・秀吉』松本和也/吉川弘文館

  • 『地図に見る日本 : 倭国・ジパング・大日本』海野一隆/大修館書店

  • 『踏み絵 : 外国人による踏み絵の記録』島田孝右、島田ゆり子/雄松堂出版

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    (c) 2006 NHK

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SDGsとの関わり

アイシュワリヤ スガンディ
/ 佛教大学 文学部講師

Aishwarya Sugandhi

[職歴]

  • 2013年4月~2014年3月 京都大学大学院人間・環境学研究科 ティーチング・アシスタント
  • 2015年4月~2016年3月 関西医科大学 研究補助員
  • 2017年4月~現在に至る 佛教大学文学部 契約講師
  • 2017年~現在に至る 天理大学非常勤講師
  • 2018年~現在に至る 明治国際医療大学非常勤講師
  • 2020年~現在に至る 甲南大学非常勤講師
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