#地域#ケア#障害#マイノリティ
被災地における「いのちと暮らし」を守る支援とは?
社会福祉施設に求められるBCP
後藤 至功佛教大学 専門職キャリアサポートセンター講師
Introduction
大規模な自然災害が頻発する中、災害福祉や災害ソーシャルワークの重要性が増している。後藤至功講師は数多くの被災地で支援活動や実態調査を実施。その成果を社会福祉分野のBCPに生かしている。
避難所生活で被災者の「日常性」と「尊厳」をいかに
守るか
大地震や豪雨による水害など、多くの命や生活が奪われる大規模災害が多発している。こうした災害時では、とりわけ高齢者や援助を必要とする人々に被害が集中する傾向にある。「内閣府の発表によると、2020年7月、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した『令和2年7月豪雨』で亡くなった人のうち、実に79%が65歳以上でした」。後藤至功講師は、地域福祉の中でも災害ソーシャルワークや災害福祉に強い関心を持っている。
特に後藤講師が訴え続けているのが、避難所や福祉施設などで過ごす避難生活期における要配慮者支援の重要性だ。この避難生活期以降に、体調悪化や過労などの間接的な原因で死亡する災害関連死が少なくない。「こうした関連死を減らすと同時に、被災者の『日常性と尊厳』をいかに守るかが重要です」と強調する。
後藤講師によると、避難所や福祉施設などでは災害時に医療的視点に基づいた支援体制が構築されやすい。その中では、要配慮者がある程度動くことができるにもかかわらず、ベッドに寝かせられたままになるなど、暮らしの視点がないがしろにされる現状があるという。「要配慮者は『患者』ではなく『主体者』であり、避難所は『病院』ではなく『生活の場』です。『災害時だから』『お世話になっているから』という理由で、その方の誇りや人格を押し込めることがあってはならない」として、「医療モデルに生活モデル、社会モデルの視点をどうやって組み入れていくかが重要」だと語る。
熊本地震の被災地で社会福祉施設の
活動と支援の仕組みを可視化
後藤講師は自ら被災地に赴き、支援活動に携わりながら、その実態や課題を明らかにし、災害時における福祉のあり方を模索している。実態に基づいた研究成果や提言は、自治体の災害福祉政策やガイドライン・防災マニュアルにも生かされている。
2016年4月14日以降、熊本県一円に大きな被害をもたらした熊本地震の際にも、発災からわずか1週間後には被災地に入り、およそ5ヶ月間にわたって支援活動に従事しつつ、被害状況の経過記録と調査を行った。
そこで注目したのは、さまざまな団体が協働で立ち上げた「みなみ阿蘇福祉救援ボランティアネットワーク」の活動だ。住民の生活導線が途切れる中、当該ネットワークによって南阿蘇村内の福祉施設9カ所に延べ1,600名を超える外部支援者が派遣されたという。後藤講師は、社会福祉施設の関係者にヒアリング調査を実施。それらの施設が人々の「いのちと暮らし」を守るために行った取り組みやそれを支える仕組みを明らかにした。
社会福祉施設や福祉避難所の運営者、利用者の「生の声」を聞き取り、どのような支援活動や仕組みが機能していたのか、その実態を可視化した例は極めて少ない。この成果は、今必要とされている社会福祉施設・事業所における「事業継続計画(BCP)」や「事業継続マネジメント(BCM)」を検討する上でも貴重な手がかりになるという。
急がれる社会福祉施設におけるBCP
もはや災害が「非日常」の災い事ではなくなりつつある現代、災害を想定した「事業継続計画(BCP)」や「事業継続マネジメント(BCM)」の必要性が盛んに議論されるようになっている。企業を中心に策定が進むが、「社会福祉施設・事業所においても欠かせない」と後藤講師は言う。2021(令和3)年度の介護報酬改定、運営基準見直しの中で「感染症・災害」に関するBCP策定の義務化が盛り込まれた。義務化される2024年までには3年間の猶予があるものの、介護・福祉業界でBCP/BCMが策定された例はまだ少ないという。そうした現状を踏まえ、BCP策定推進の一助とするべく後藤講師は、2021年4月、これまでの研究蓄積を注ぎ込み、『社会福祉施設・事業所のBCP 事業継続計画』(CLC出版)を上梓した。
「企業のBCPでは、災害が発生した際、中核事業だけを残し、事業を一時的に停止・縮小することで継続が図られますが、保健や福祉、医療の場合、災害時こそニーズが拡大するため、活動を止めるわけにはいきません。そこに企業と福祉施設・事業所とのBCPの違いがあります。加えて社会福祉施設・事業所は、「地域資源」でもあり、施設の継続だけでなく、地域のために機能を継続させる『地域のBCP』を考える必要があります」と指摘する。
そうした社会福祉施設・事業所のBCPのポイントの一つとして、後藤講師が説くのが「外部支援の活用」だ。災害を見据え、必要な物資やツール、仕組みを調達できるよう外部のさまざまな組織と連携協定を結んでおく必要があるという。「例えばスーパーマーケットと協定を結び、被災した時に食料や必要な物資を仕入れられるようにしたり、自動車関連会社と協定を結び、電力の供給が止まった時に電気自動車の借り入れを約束するといった事例があります」。一方、労務管理に対する対策も欠かせない。発災後、超過勤務などの過酷な勤務が続けば、職員の大量退職を招く恐れがある。「職員の労務管理をおろそかにしないことも、BCPの重要なポイントです」と語る。実態に即した具体的で詳細な指南は、現実を見てきた後藤講師だからこそ書けたものだ。実効性の高さに、福祉・介護に関係する人々の間で早くも大きな反響を呼んでいる。
さらに今後、高齢者や障がいのある人々、子どもなど、多様な対象施設に細分化され、それぞれに応じたBCPが求められていくと見る。災害発生時のみならず、その後長期にわたる生活も照射したBCPをどのように作っていくか。後藤講師にかかる期待は大きい。
BOOK/DVD
このテーマに興味を持った方へ、
関連する書籍・DVDを紹介します。
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『チェックリストと事例でわかる! 介護施設の災害・感染症対応』早坂聡久編/ぎょうせい
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『現場から生まれた介護福祉施設の災害対策ハンドブック』山田滋/中央法規
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『ひな型でつくる福祉防災計画~避難確保計画からBCP、福祉避難所〔増補改訂・改題第3版〕』鍵屋 一・岡野谷 純・岡橋生幸・高橋 洋/東京都福祉保健財団
教員著作紹介
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『社会福祉施設・事業所のBCP』CLC出版
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『人と社会に向き合う医療ソーシャルワーク』日本機関紙出版センター(共著)
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『最新社会福祉士養成講座 ソーシャルワーク演習』中央法規(共著)
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『フードバンク 世界と日本の困窮者支援と食品ロス対策』明石書店(共著)
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『災害ボランティア入門』ミネルヴァ書房(共著)
後藤 至功
/ 佛教大学 専門職キャリアサポートセンター講師
GOTOH Yukinori
[職歴]
- 1995年4月~2005年3月 兵庫県社会福祉協議会ボランティアセンター・地域福祉部主事
- 2005年4月~2006年6月 兵庫県社会福祉協議会福祉事業部主任
- 2006年7月~2009年3月 コラボねっと 事業部長
- 2009年4月~2021年3月 佛教大学福祉教育開発センター 講師
- 2021年4月~現在に至る 佛教大学専門職キャリアサポートセンター 講師
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