#障害#健康

働く障がい者の
安全・健康を守る。

白星 伸一佛教大学 保健医療技術学部准教授

Introduction

らゆる人がいきいきと働くためには、安全・健康に働ける職場環境の実現が欠かせない。白星伸一准教授は、働く障がい者の二次障がいや就労者の運動障害の実態を調査し、環境改善や対策構築に取り組んでいる。

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働く障がい者の二次障害、就労者の運動障害を防ぎたい

ダイバーシティの重要性が認識されるようになる中で、年齢や性別、国籍、障害の有無を問わず多様な人材を雇用する企業が増えている。安全、健康に働ける職場環境は、あらゆる人がいきいきと自分の力を発揮し、活躍する上で欠かせないものだ。理学療法士でもある白星伸一准教授は、労働者の安全・健康に関心を持ち、特に就労者の運動障害や就労障がい者の二次障害の予防について、研究と実践の両面から取り組んでいる。

「なかでも障がい者の就労現場での安全や健康についての知見の蓄積は少なく、労働災害や二次障害のリスクに対し、十分な対策がとられていない現状があります」と白星准教授は問題を提起する。

白星准教授によると、二次障害とは、加齢や新たな疾病、あるいは生活環境や労働環境などの社会的要因などによって、もとの障害(原疾患)以外に新たに起こってくる障害と定義される。「加齢や疾病を阻むことはできませんが、生活や労働環境を改善することで、二次障害を予防することは可能です」。白星准教授は、これまで20年にわたって脳性麻痺、脊髄損傷、脳血管障害、ポリオなどの障がいを持った方々を対象に、二次障害の予防や職場の環境改善を支援してきた。森永ヒ素ミルク中毒被害やサリドマイド胎芽症、筋拘縮症といった薬害の被害者に対する実態調査や事例介入においても、多くの実績を持つ。

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チームで課題にアプローチし、作業環境を改善

事例介入にあたっては、まず聞き取り調査や質問紙調査を通じて実態を把握した上で、課題を洗い出し、当事者の方の働く現場を訪問する。身体はもちろん生活や労働環境に変化を起こしながら、二次障害の改善や予防に取り組んでいる。白星准教授らの強みは、医師や看護師、理学療法士、作業療法士、人間工学の専門家など多様な分野の専門家と連携し、チームで社会医学、労働衛生、人間工学、リハビリテーションといった側面から多角的に介入するところにある。これまでに多くの改善実績を報告してきた。

両手が不自由なため、足趾でパソコンを操作して仕事をしている方の作業環境を改善した事例もその一つだ。その方は、足を机の上にあげた不自然な姿勢で長時間作業するため、身体の疲労や腰痛に苦しめられていた。

白星准教授らが提案したのは、キーボードを床に置くとともに、足趾でのキーボード操作をカメラで確認できるようにすることだった。「『キーボードは机の上に置くもの』という固定概念を取り払うことで、課題を一気に解決できました。理学療法士の私一人だったらきっと身体にアプローチする方法で改善策を模索したでしょう。人間工学の専門家がいたから、最短距離で問題解決にたどり着くことができました」と、チームで取り組むメリットを強調する。

左足を机の上にあげてのキーボード入力(左)からキーボードを床に置いて操作(右)に変更することで負担を軽減

環境を改善するだけでなく、作業中の筋活動や介入前後の体圧分布といった客観的なデータ・エビデンスで効果を「見える化」することも重視する。研究知見を蓄積する目的以外に、「効果を可視化することで、対象者に納得して改善策を受け入れていただくことにもつながります」と理由を語る。

また白星准教授は、広く労働者を対象に、仕事に伴って発生する腰痛や肩こりなどといった作業関連性運動器障害に関する予防にも取り組んでいる。職場での発症の実態や要因、病態を調査するとともに、リスクの提言や予防的改善策の立案・提案を実施。その知見を予防・治療・リハビリテーション方法の確立に生かしている。

座圧を計測し「見える化」することでよりよい車いす選定をサポート
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就労障がい者の労働災害の実態把握と安全衛生対策の確立に挑む

現在、白星准教授は、障がいをもつ労働者の労働災害の実態を把握するという新たな試みに取り組もうとしている。「労働災害調査や安全衛生対策は、企業責任として広く認知されていますが、福祉就労の現場ではいまだ現状把握が進んでいるとはいえません」と語る。これまで明らかにされてこなかった障がい者就労の現場に切り込むことは、大きな挑戦となる。

「まずは実態把握のための質問項目の検討から始めています。労災事故や二次障害などの安全・健康問題の発生状況を把握するとともに、就労障がい者の心身の機能と作業環境の両方を評価するための項目を検討しています」と言う。今後、協力を得られた障害者作業所においてパイロット調査を実施し、評価視点を整理、確立する計画だ。

調査~評価の流れ図

実態を把握した後は、その知見をもとに就労障がい者のための安全衛生対策の確立に寄与することを目標に据える。「最終的には職場の作業環境管理と就労障がい者の健康管理を効果的に行うことのできるチェックリストの作成を目指しています」と白星准教授。就労現場でチェックリストを利用することで、労働災害のリスクを軽減するとともに、身体的負担の軽減、さらには作業効率、生産性の向上も可能になるという。

誰もが安全・健康に働ける職場環境の実現に向け、白星准教授はこれからも力を尽くす。

2022年6月更新

BOOK/DVD

このテーマに興味を持った方へ、
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教員著作紹介

  • 「介護福祉学への招待 地域包括ケア時代の基礎知識」クリエイツかもがわ(共編)

  • 「ワークデザイン」科学研究所(共訳)

  • 「オーチスのキネシオロジー 身体運動の力学と病態力学 原著第2版」ラウンド フラット(監訳)

  • 「PT・OT必修シリーズ 消っして忘れない運動学 要点整理ノート」羊土社(共著)

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  • 障害
  • 健康
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SDGsとの関わり

白星 伸一
/ 佛教大学 保健医療技術学部准教授

SHIRAHOSHI Shinichi

[職歴]

  • 1997年4月~2004年3月 滋賀医療技術専門学校 専任教員
  • 2004年4月~2007年3月 藍野大学 医療保健学部 助教授
  • 2007年4月~2008年3月 藍野大学 医療保健学部 准教授
  • 2008年4月~現在に至る 佛教大学 保健医療技術学部 准教授
教員紹介

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