#障害#ケア#健康
歩行機能の回復をアシストする
歩行学習支援ロボットを開発。
坪山 直生佛教大学 保健医療技術学部教授
Introduction
歩行機能に障害が起きた後、機能の回復や改善には効果的なリハビリテーションが重要になる。坪山教授が統括する産学連携の研究チームで、歩行練習をアシストする画期的なロボットの開発・発売に成功した。
産学連携で歩行練習を支援するロボットを開発
脳卒中の後遺症や脊髄損傷、あるいは加齢による身体の衰えなどによって、歩行に困難を抱える人は数多くいる。歩行機能が低下すると、転倒しやすくなったり疲れやすくなるだけでなく、それが活動量の低下、さらには廃用症候群を招き、最終的に全身状態の悪化にまで至ることがある。それを防ぐためには歩行練習をして、歩行機能を回復・改善させる必要がある。「しかし介護施設やデイケアセンターなどで効果的な練習環境を十分整えるのは、容易なことではありません」と坪山直生教授は語る。
坪山教授らの研究グループは、ロボットを使ってこの問題を解決しようと取り組んでいる。産学連携のチームで歩行学習支援ロボット「Orthobot®(オルソボット)※」の開発に成功。2020年3月、発売された。
研究の始まりは、およそ10年前にさかのぼる。「2013年、文部科学省と国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムがスタートした時、私の前任校である京都大学が拠点の一つに採択され、私たちの研究グループもプログラムに参加することになりました」と坪山教授は振り返る。
COIプログラムは、将来の社会で想定される課題の検討からあるべき社会の姿を設定し、バックキャスティングで必要な技術革新を実現させようというものだ。研究・開発に留まらず、産学連携によって社会実装まで達成することを目標にしている。
「当時の同僚で、理学療法士でもある京都大学の大畑光司講師(現、北陸大学健康未来社会実装センター長)が核となるアイデアを出し、現在まで中心的役割を担っています。ロボットの制御アルゴリズムの開発と改良を担当したのは、京都工芸繊維大学の澤田祐一先生と東 善之先生です。私は開発・研究全体を統括するとともに、医師として医学的見地から開発の監修を行ってきました」と言う。さらにサンコール株式会社が製品開発、大日本印刷株式会社が電子基板の設計、社会実装が視野に入ってからはフィンガルリンク株式会社が販売戦略を担当。産学が協力し、研究開発から製品化、社会実装までを実現してみせた。「さまざまな大学・企業が連携するのは簡単ではありません。毎月1回は直接議論する場を設け、本音をぶつけ合いながら10年近くにわたって協力し、一定の成果を得たことは誇れるところだと思っています」と坪山教授は語る。
※Orthobot®:サンコール株式会社の登録商標(商標登録第5944933号)。本製品については特許および意匠登録出願中。
歩行の際の膝関節の曲げ伸ばしをアシスト
人は歩く時、まず膝を曲げて片脚を上げ、股関節と膝関節を使って脚を振り子のように振りながら伸ばし、前方の地面に下ろす。脚を上げた時に膝がしっかり曲がり、地面に着いた時に膝が伸びていると、踏ん張りを効かせて次の一歩をスムーズに踏み出すことができる。ところが歩行機能が障害されると、膝関節の曲げ・伸びをうまくコントロールできなくなる。
歩行学習支援ロボット「Orthobot®」は、大腿部に装着するデバイスに、姿勢角・加速度を測定するセンサと電動モーターを内蔵。脚が地面から離れて前へ踏み出している間の動きを「振り子」とみなし、その運動状態をセンサ技術で計測する。その情報から歩行状態を推定し、モーターで膝関節にアシストトルクを加える仕組みだ。これにより歩行中の適切なタイミング・強さで、膝関節の屈曲と伸展をアシストすることが可能になる。
このロボットを、歩行機能を障害した人のリハビリテーションに役立てようというのが坪山教授らの狙いだ。「歩けない人を歩けるようにするのではなく、歩行練習によって『良い歩き方』を再学習することを助けるロボットです」と特長を説明する。
「良い歩き方」の再学習に効果があることを実証
実証実験によって、ロボットの有効性も確かめている。脳卒中後の患者17名を対象にロボットの評価試験を実施した。「デバイスを装着して3分間歩行してもらい、その前後で10mの歩行速度、10mにかかる歩数、歩行中の膝関節の動きと筋活動を測定しました。その結果、デバイスを使う前より歩行速度が上がり、10m間の歩数が減るとともに、脚がより高く上がり、歩幅も大きくなることが確かめられました。しかもデバイスを装着している時だけでなく、その後の練習でもしばらくの間、効果が持続することも明らかになりました」と言う。
加えて坪山教授らは、もう一つ興味深い実証結果を得ている。「デバイスを装着して歩行練習を行った群と、何も装着せずに通常の歩行練習を行った(コントロール)群を比較したところ、コントロール群でも歩行速度は上がったものの、歩行中の膝関節の動きや筋活動には変化が見られませんでした。一方デバイスを装着した群は、歩行速度だけでなく、膝関節の動きも改善されていました」。つまり「良い歩き方を再学習する」という点でもデバイスの有効性が示されたと言える。
「今後さらにアシストのタイミング・強さを自動で調節できるようにしたい」と技術課題を語った坪山教授。2022年1月に「歩行学習支援ロボットコンソーシアム」を設立。現在も、チームで研究を継続している。「介護機器を開発し、上市するところまで到達したものの、マネジメントも含めサービス提供の仕組みはいまだ確立できていません。今後それを実現し、介護現場の人手不足などに貢献していきたい」と、高い目標を見据えている。
BOOK/DVD
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教員著作紹介
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Kawasaki S, Ohata K, Tsuboyama T, Sawada Y, Higashi Y. Development of new rehabilitation robot device that can be attached to the conventional Knee-Ankle-Foot-Orthosis for controlling the knee in individuals after stroke, Proceedings of 2017 International Conference on Rehabilitation Robotics. 2017 July , 2017:304-307. doi:10.1109/ICORR.2017.8009264.
特許
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長下肢装具用アクチュエーターユニット
特許番号6680556 -
長下肢装具用アクチュエータユニット
特許番号6845045 -
アクチュエータ付き長下肢装具
特許番号6148766 -
アクチュエータ付き長下肢装具
特許番号6717766 -
アクチュエータ付き長下肢装具
特許番号6765989
坪山 直生/ 佛教大学 保健医療技術学部教授
TSUBOYAMA Tadao
[職歴]
- 2003年10月~2008年3月 京都大学・医学部・教授
- 2007年4月~2018年3月 京都大学・大学院医学研究科・教授
- 2018年4月~現在に至る 佛教大学・保健医療技術学部・教授