#環境

持続可能な地球の未来を担う力を培う
大学教育プログラムを開発する。

林 隆紀佛教大学 社会学部准教授

Introduction

境問題などの地球規模の課題を解決していくために、環境との共生意識と行動力を持った人材の育成が必要とされている。林 隆紀准教授はそうした人材を育成するべく、大学教育プログラムの開発に取り組んでいる。

01

環境問題解決に寄与する力を養成する
大学教育プログラムを開発

頻発する自然災害、プラスチックによる海洋汚染、工場などから排出される化学物質による大気汚染、原子力発電所事故で流出する放射性物質など、地球の存続を脅かすような環境の悪化は、年々深刻さを増している。「これらを食い止め、持続可能な未来の社会を実現するためには、市民一人ひとりがシチズンシップを高め、自らの意思・行動を変えていく必要があります」と語るのは、林 隆紀准教授だ。

「そのために、地球環境との共生に対する意識を持って、主体的に社会に参画し、これからの社会づくりを担う人材を育てることが急務です。そこに大学をはじめとした高等教育機関が果たす役割はますます大きくなっています」と言う。

そうした問題意識のもと、林准教授は、「社会における人と人との共生、人と地球環境との共生に明確な自覚を持ち、主体的に考え、行動する市民」を育成するための学修システムの開発に取り組んでいる。これまでの研究で、「環境再生」をテーマにしたe-ラーニングによる教育プログラムを開発。実際に大学でモデル授業を実施し、その効果を検証した。

02

前提知識のない議論は
見当違いで意味のないものになる

本教育プログラムで、林准教授が「教材」として取り上げたのが、公害問題を抱えた過去から環境再生を遂げた北九州市の事例だった。北九州市は、高度経済成長期に重化学工業の工場が林立し、大気汚染、海洋汚染など深刻な公害が発生した歴史がある。その後、市民と行政、企業の協働により、短期間で劇的に汚染改善を進め、環境先進都市へと生まれ変わった。

この事例を題材として、e-ラーニングによる事前の知識学習と、ディスカッションなどのアクティブラーニングを通じて、学生が深い学びのたどり着く学修プログラムを構築した。

北九州市の事例を取り上げた教材

「環境教育、異文化教育、法教育、歴史教育を専門とする研究者が集まって、それぞれの視点を導入することで、多角的に問題にアプローチする構成にしました」と言う。

次いで、林准教授が教鞭をとる授業をモデルとして、開発したプログラムを実施し、学生の学びの効果の検証も行った。検証で林准教授が特に注目したのが、ディスカッションが「深い学び」にどのように貢献するかだ。そこで明らかになったのが、「前提となる知識」の重要性だった。

「モデル授業で、事前知識を与えずに『大気汚染』をテーマに議論させたところ、しばしば議論が見当違いの方向に進んでしまうという事態が起こりました。しかし当の学生は、そのことに気づいておらず、授業後の意識調査でも、多くの学生が『議論によって理解が深まった』と認識していることがわかりました」。前提知識の欠如は、議論の質を低下させ、それがまったく意味のないものになるリスクを飛躍的に高める。そればかりか、将来の行動にまで悪影響を及ぼす可能性さえあると指摘する。「モデル授業を通じて、前提知識が不足した状態では、議論そのものが無効になることを、学生自身が気づけたのではないかと思っています」と成果を振り返った。

本プログラムは、e-ラーニングやディスカッションだけでなく、フィールドワークなど多角的なアクティブラーニングを通じて学びを深める構成となっているが、折しも実証研究期間中にコロナ禍に直面。学外学習が大幅に制限されたことから、その効果検証は、次の研究に持ち越された。

03

「人工と自然」を軸にした
新プログラムを開発
共生社会の創造に
力を発揮する資質を養う

現在、林准教授は、これまでの研究をさらに発展するかたちで、新たな大学教育プログラム開発に着手している。今回は、前回の研究メンバーに加えて、新たに「自然と社会のかかわり」を専門に研究する研究者を迎えた。「それにより、『人工と自然』を主軸に据えた、新たなプログラムを考案しました」と林准教授。「人工と自然」を軸に、「プラスチック材料の生態系への影響への対処」を具体的なテーマとして、「公正・公平な態度で社会に参画しようとする意欲を持ち、社会的不平等の是正や共生社会へのアプローチを目指す資質」を養成するプログラムを目指すという。

林准教授は、もともと工学分野を専門とし、プラスチックなどの高分子材料の研究に取り組んできた。その研究を進める中で、プラスチックの環境への悪影響に問題意識を抱いた経緯がある。「だからこそ学生にも、環境問題を他の場所で起こっていることではなく、『自分事』として捉えてほしい」という強い思いがある。そのため新たなプログラムでは、より身近な例を取り上げ、学生に「自分事」として考えさせる工夫を凝らしている。

「『人工的な社会と自然と共生する社会のどちらが理想的か』と尋ねたら、多くの学生は当然後者と答えるでしょう。しかし自然と共生するということは、例えば、身近にたくさんの虫がいる世界で暮らすことを意味するかもしれません。学生には、そうした現実も想像しながら、自然と共生する意味を深く考えてほしいと思っています」

本プログラムでは、フィールドワークなどのアクティブラーニングに加え、ここ数年で教育業界にも急速にICTの導入が進んでいることを考慮し、ICT学習ツールを活用した学びも考えていくという。「VRの活用も一策です」と林准教授。プログラムを練り上げた後、モデル授業で検証し、さらにブラッシュアップを重ねていく計画だ。

環境問題という地球規模で向き合うべき難題に効果的な解決策を見出せるかは、次代を担う若者たちにかかっている。林准教授の教育への情熱に、その希望が見えた。

2026年5月更新

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林 隆紀/ 佛教大学 社会学部准教授

HAYASHI Takanori

[職歴]

  • ・1993年4月~1997年9月 大阪府立大学・工学部応用科学科・助手
  • ・2003年4月~2007年3月 武庫川女子大学・生活環境学部生活環境学科・専任講師
  • ・2007年4月~2010年3月 佛教大学・社会学部公共政策学科・講師
  • ・2010年4月~現在に至る  佛教大学・社会学部公共政策学科・准教授
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