#仏教#歴史#日本

山野を歩き修業に打ち込んだ行者が
仏教に果たした役割とは?

齋藤 蒙光佛教大学 仏教学部教授

Introduction

代から、山野での修行や遊行に打ち込む行者と呼ばれる宗教者がいた。齋藤 蒙光教授らは、この謎の多い行者に着目。文学・歴史学・仏教学の観点から行者の信仰や活動を研究し、日本の仏教実践に新たな光を当てようとしている。

01

修業に専念し、験力を得たと伝わる
謎の宗教者・行者

日本には古代から、行者と呼ばれる宗教者がいた。行者は、「聖(ひじり)」「修験者」などともいわれ、修業に専念し、功徳の現れとして験力を得るなど、特別な存在として信仰されてきた。飛鳥時代に葛城山を中心に活動したと伝えられ、後に修験道の祖とされた役小角(えんのおづぬ)が有名だが、奈良時代に私度僧として諸国を遊行したと伝えられる行基をはじめ、平安時代に「念仏聖」などといわれ、諸国を行脚したと伝わる空也、また遁世僧として各地を遍歴し多くの歌を残した西行など、仏教者の中にも行者の存在が認められる。

「行者は、東大寺などの大寺院から距離を置き、山林修業や遊行に打ち込む修行者で、その多くは身分の低い僧でした。いわば仏教における周縁的な存在で、文献などにもその存在は見え隠れしているものの、まとまった記録はほとんど残されていません」と、齋藤蒙光教授は説明する。その幅広い活動範囲から、多方面に影響を与えたと考えられていながら、史料の少なさゆえに、いまだ謎の多い「行者」。この行者に焦点を当て、その存在意義を検討しようという興味深い研究プロジェクトが進んでいる。佛教大学仏教学部の文学・歴史学・仏教学の研究者が、それぞれの視点から行者の出現や活動、行者に対する信仰などを検討し、彼らが当時、社会的・宗教的にどのような役割を果たし、また後世にどのような影響を与えたのかを分析。「行者」というこれまでにない視座から、日本における仏教実践に新たな光を当てようとしている。

02

インド仏教の神変説話、
日本の霊験譚を比較検討

プロジェクトでは現在、インド文献と文学・歴史文献、仏教・浄土教文献の3班に分かれて研究が進められている。インド文献班では、インド仏教における神変説話を中心に研究を行っている。「行者に関する史料が少ない一方で、行者の神通力や験力にまつわる言説や伝承は数多く残されています。インドの文献と日本の文学・歴史文献から得られる情報を共有・比較することで、見えてくることがあるのではないかと考えています」と、齋藤教授は期待する。まずインド仏教の教説を記す漢訳阿毘達磨文献を分析し、経典の中にある神変説話をどう理解していたのか分析している。「『今昔物語集』などに取り上げられ、能楽の演目にもなっている「一角仙人」という異形の者の説話があります。一角仙人は、インドの婆羅奈国の辺境に棲んでいたとされる仙人で、仏教との関わりも推察されることから、インド成立の『阿毘達磨大毘婆沙論』との比較検討も行っています。」

文学・歴史文献班では、修験道が盛んに行われた熊野三山・葛城山周辺・島根半島でフィールドワークを実施し、行者の活動地域に建立された寺院の寺院縁起や地誌などを分析する。その中に掲載された霊験譚や説話・伝承などを検討する。

たとえば修験道の祖と位置付けられる役小角は、古代・中世の説話集や寺社縁起、歴史書などに数多く登場する。「文献の中で役小角は異能の存在として描かれています。研究分野を横断して検討することで、その意義についてより明確に読み取ることができるかもしれません。」

03


念仏聖・高野聖の
思想・宗教実践を追う

法然の思想研究を専門にする齋藤教授は、仏教・浄土教文献班に所属し、経典や仏典における行者の位置づけを探っている。中でも阿弥陀仏信仰や念仏実践を行った「念仏聖」や、中世に高野山に拠点を置きながら諸国を遊行した「高野聖」に注目。法然や浄土宗に関連する伝記資料から、法然および浄土宗と関わりのあった念仏聖や高野聖の思想や活動を読み取ろうとしている。

「法然や浄土宗が、他宗に属する行者と関わりがあったことを意外に思う方もいるかもしれません」と齋藤教授。法然は当初、修業によって覚りに到達することを目指したが、やがてそうした「自力」の仏教を離れ、仏に救ってもらうという「他力」の仏教に行き着く。「南無阿弥陀仏」と念仏さえ称(とな)えれば、誰もが平等に往生できるという「専修念仏」の教えを説いた。諸行を選び捨てる立場のため、他の宗派と積極的に交わったりしなかったと考えられがちだ。しかし近年、有名・無名の僧たちが一行ずつ写経している「一行一筆結縁経」が相次いで発見され、そこに法然が他の宗派の僧侶と交流した痕跡が見て取れるという。

「大阪府の一心寺から発見された『摩訶般若波羅蜜多心経・阿弥陀経』には、法然の筆による一行と署名が確認されています。そこには諸国を巡って寺社などの造営資金を集める「勧進聖(かんじんひじり)」の代表格であり、阿弥陀仏信仰を有していた重源(ちょうげん)も署名しています。また愛知県の西光寺から見つかった『無量義経』では、法然のすぐ後に、日本における臨済宗の開祖であり、重源から東大寺再建の大勧進(総監督)を引き継いだ栄西の筆も確認できます。そうした宗派を超えたつながりに、行者が大きな役割を果たした可能性が考えられます」と語る。

また真言系念仏聖の思想的支柱となった覚鑁(かくばん)に着目し、その思想の解読にも取り組んでいる。「覚鑁は真言と念仏とを一体化する理論を構築し、高野聖に提供しました。重源の阿弥陀仏信仰もその影響下にあります。覚鑁に関する文献から、念仏聖の信仰や実践の多様性を読み取ることができそうです」

プロジェクトはまだ途に就いたばかりだ。今後さらに各班で研究を進めるとともに、それぞれの研究成果を共有して知見を増やし、総合的な理解を深めていく。

本研究は、佛教大学総合研究所共同研究プロジェクト「行者の出現と遊行遍歴による伝播の総合的研究」による研究活動です。

2026年7月更新

BOOK/DVD

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    『法然房源空述 逆修説法』岩谷隆法・吉原寛樹・齊藤蒙光・眞柄和人 訳注/佛教大学法然仏教学研究センター

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齋藤 蒙光/ 佛教大学 仏教学部教授

SAITO Muko

[職歴]

  • 2014年4月~現在に至る 知恩院浄土宗学研究所嘱託研究員
  • 2018年4月~2019年3月 東海学園大学人文学部・共生文化研究所・講師
  • 2019年4月~2022年3月 東海学園大学人文学部・共生文化研究所・准教授
  • 2022年4月~2026年3月 佛教大学 仏教学部・仏教学科・准教授
  • 2026年4月~現在に至る 佛教大学 仏教学部・仏教学科・教授
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