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マインドフルネスで
再非行の連鎖を断ち切る。

谷本 拓郎佛教大学 教育学部准教授

Introduction

今、医療やビジネスの世界で注目を集めているマインドフルネス。谷本拓郎准教授は、ヨガを取り入れた独自手法を考案。少年院などでの実践を通じて、マインドフルネスが再犯・再非行の抑止につながるか研究している。

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「今、この瞬間」に意識を向ける
マインドフルネスとは?

心身の健康増進やストレス対策などへの関心が高まる中で、医療や教育、矯正、ビジネスの世界を中心に「マインドフルネス」が注目されるようになっている。

しかし「その意味を誤解して捉えている人は少なくありません」。そう話すのは、谷本拓郎准教授だ。マインドフルネスの起源は、テーラワーダ系仏教(上座部仏教)で悟りを開くために用いられる瞑想法(サティパッターナ)にある。現在主流の「マインドフルネス」は、元来の宗教性を排除し、瞑想法を中心とした取り組みを指すことが多いが、それは一端に過ぎないという。

谷本准教授が用いた定義によると、マインドフルネスとは、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」(Kabat-Zinn,1990)である。「人は、何かをしている間にも意識があちらこちらに散乱し、思うように集中できないことがままあります。こうした捉えどころがなく、自分の意思ではコントロールできずに動き回る心のあり様を、心理学の領域ではマインドワンダリングや反芻思考という言葉で説明しています。脳科学的には、デフォルトモードネットワーキングという神経回路が活性化している状態のことです」と、谷本准教授は解説する。

不安や怒りなどの強い感情が喚起される出来事や記憶があると、頭の中でそれがぐるぐると巡り続け(反芻思考)、何度も不快な気持ちを味わったり傷ついたりしてしまう(破局化思考)。「今、ここ」で体験している感覚・思考・感情に注意を向けることで、その状態から脱却する。これこそが、マインドフルネスの目的だという。

02

トラウマに配慮したマインドフルネスの
再非行・再犯防止効果を検証

谷本准教授は犯罪心理臨床に長く従事した経験から、犯罪抑止とマインドフルネスとの関係に高い関心を持っている。ヨガを取り入れた独自の手法を考案し、少年院や児童福祉施設などでマインドフルネスの実践指導を続けてきた。

「マインドフルネスには、注意力・集中力の向上のほか、うつ病や慢性疼痛といった健康レベルの改善、自尊心や主観的幸福感の増進など、さまざまな効果が報告されています。近年、医療やビジネスの分野で活用が進んでいますが、司法・犯罪領域、福祉領域では、まだまだ発展の余地があると考えています」と、その可能性を語る。これまでの研究で、児童自立支援施設の児童に14日間、マインドフルネスに導くヨガ・瞑想のプログラムを実施したところ、混乱や焦り、不安、緊張といったネガティブな感情が相対的に下がった一方、自尊心が向上したという結果を得ている。

とりわけ矯正施設におけるマインドフルネスの重要な効果の一つは、「自らを中立的に観察する力を培い、自制力を増進できる点にある」と言う。自分自身のありのままの姿を俯瞰するように観察し、その時々の感情・思考・身体感覚を的確に認識できれば、不快な刺激や怒りなどの感情に翻弄されることなく、自分自身を統制することができるようになり、衝動的・短絡的に逸脱行動に走るリスクを抑えられるというのだ。

「ただし実践するには、注意しなければならないことがある」と強調する。それは、「トラウマ」への配慮だ。トラウマとは、「死や重度の損傷、性暴力に実際に曝されること、もしくは危うく曝されそうになる出来事による心理的傷つき」と定義される。谷本准教授によると、少年院の入所者の約83%がトラウマの形成につながる逆境的小児期体験を抱えており、また児童心理治療施設では約86%の児童が虐待被害を受けた経験があるという報告もあるという。「こうしたトラウマを抱えた状態で、不用意に自分の心に直面する機会を提供した場合、トラウマに結びついた刺激に無防備に直面し、ストレス症状を著しく悪化させる危険性があります。そのため、自己の内面に向き合う性質を持つマインドフルネスの実践を指導する際には、トラウマの再燃を回避する『トラウマ・センシティブ』な対応が欠かせません」。マインドフルネスの実践には、対象者が、「今、ここにいる自分」が安全であると実感でき、自分自身を安定させられると確信できる環境や状態をつくる知識・スキルが必要なのだ。

谷本准教授は最近の取り組みで、トラウマ・センシティブなマインドフルネスによって、他者への配慮の意識や社会適応意欲を向上させ、再犯・再非行に結びつくような心理社会的問題を改善しようと試みている。少年院でヨガ・マインドフルネスのプログラムを実践。対象者の精神的健康状態がどのように変化したかを調べ、マインドフルネスの効果を検証している。

03


今、頭に浮かんだことを書き出す
マインドフルネス・ジャーナリングを研究

さらに現在、マインドフルネス・ジャーナリングにも研究の射程を広げている。「今、この瞬間に頭に浮かんだことを評価・判断せずに書き出す」ことによって、マインドフルネスに導く手法が、マインドフルネス・ジャーナリングだ。「大学生を対象に10日間、マインドフルネス・ジャーナリングを行う実験を実施したところ、精神的健康レベルを測る試験で、ネガティブな感情傾向が下がり、自己理解が促進されたことがわかりました。現在は、そのメカニズムの解明に取り組んでいるところです」

昨今、特にビジネス業界で、モチベーション向上などの効果を期待して、ジャーナリングを取り入れる人が増えている。「しかし理解の浅いまま実践することには、危険が伴います」と、谷本准教授。マインドフルネスについての確かな見識を広く伝え、その効果を安全かつ最大限生かしてほしい。その思いで実践と研究の両方を続けている。

2026年9月更新

BOOK/DVD

このテーマに興味を持った方へ、
関連する書籍・DVDを紹介します。

  • 『Yogawoman』(DVD)提供:Gravitas Venture

  • 『トラウマセンシティブ・マインドフルネス』

    『トラウマセンシティブ・マインドフルネス』デイビッド・A・トレリーヴェン/金剛出版

教員著作紹介

  • 『福祉のまなざしから心理支援を考える 福祉心理学』教育情報出版(編著)

  • 『新・心理学を今に活かす』教育情報出版(分担執筆)

表彰

  • 最優秀研究賞(日本マインドフルネス学会第12回大会)
    (再犯防止に向けたマインドフルネス介入プログラムの検討 ー対面・オンデマンドによるハイブリッド型実践指導からー)

KEYWORD

  • ケア
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谷本 拓郎/ 佛教大学 教育学部准教授

TANIMOTO Takuro

[職歴]

  • 2009年4月~2021年3月 法務省・法務技官
  • 2021年4月~2025年3月 京都光華女子大学・健康科学部・専任講師
  • 2025年4月~ 佛教大学・教育学部・准教授
教員紹介

立ったままできるヨガポーズを教えていただきました