#こころ#健康#ケア#地域#家族#子ども#障害#日本

看護学部の開設で広がる
研究・教育の連携可能性。

田野中 恭子佛教大学 看護学部教授

岡田 朱民佛教大学 看護学部講師

趙 崇来佛教大学 看護学部講師

Introduction

2026年4月、佛教大学では、これまでの保健医療技術学部看護学科が学部として独立し、新たに看護学部が誕生した。看護学部の田野中恭子教授、岡田朱民講師、趙 崇来講師の3名が、新学部で、どのような研究・教育の可能性が広がるか語り合った。

01

多彩な分野の研究者が
看護学部に集結

田野中私は、精神疾患の親をもつ子どもへの支援について研究しています。2013年から、当事者への調査を実施し、各年代によって、子どもたちがどのような困難に直面するのかを明らかにしてきました。研究だけで終わらせず、研究で得た知見を踏まえて、どのような支援が必要なのかを考え、実践につなげることも大切にしています。実際に当事者の個別相談や子どもの集いを運営するほか、ウェブサイトやパンフレット、動画などを作成し、理解促進や支援につながる情報発信を行っています。

2020年には、精神疾患を抱える親をもつ子どもを主人公にしたドイツの児童書『悲しいけど、青空の日』(サウザンブックス、2020)を邦訳・出版しました。小学生の少女を主人公にした絵本の形式で、親がこころの病気になった子どもの実情や気持ち、必要な支援について子どもの視点で語るもので、出版後には支援の現場でも活用していただいています。

今年は、より低年齢層の子どもの理解も促進できたらと、マンガを取り入れた小中学生向けパンフレット・ウェブサイトの制作や、カナダの絵本『うちのママは凧のよう』の翻訳、出版を計画しています。精神疾患の親を抱える子どもたちの困りごとは、多岐にわたります。そのため医療・保健・心理・福祉・教育など、多様な側面から子どもや家族への理解と支援が必要だと考えています。

趙私は、主に看護教育について研究しています。その一つとして、看護教育における臨床と大学との連携に着目し、臨床看護師や模擬患者によるシミュレーション教育の効果検証を行いました。佛教大学の保健医療技術学部看護学科(現・看護学部)の学内演習に、模擬患者・臨床看護師を招聘し、「手術後1日目の看護」・「急変時の看護」の実際を想定してデモンストレーションと指導を実施。学生の学習効果を検証しました。模擬患者の方に術後の痛みなど、実際の患者さんに近い反応をリアルに演じていただくことで、痛みや羞恥心への配慮、声かけの大切さなどを臨場感をもって学べることがわかりました。また、臨床看護師の姿にロールモデルとしての効果やキャリアビジョン形成の一助にもなっています。

最近では、心不全患者に対するアドバンス・ケア・プランニング(ACP)についても研究しています。心不全患者の多くは高齢者であり、意思決定能力が低下する前にACPを実践することは極めて重要です。しかし心不全は、良くなったり、悪くなったりを繰り返すため、ACPをいつ始めるべきかを判断するのは容易ではありません。そこで病気やACPについて理解を促進するためのビデオアシスタントツールを作成し、その効果を検証しています。

岡田私は看護技術の開発や補完代替療法の研究に取り組み、近年は、リラクセーション法の研究に力を注いでいます。「リラクセーション」の概念分析から、科学的根拠に基づくリラクセーション法の構築、さらには指導実践にまで取り組んでいます。

リラクセーション法は、特別な人だけが行うものではなく、子どもから高齢者まで、誰もが身につけられるセルフマネジメントの方法の一つです。最近では、佛教大学二条キャンパスの近隣地域への社会貢献の一環として、地域の方々を対象に「リラクセーションカフェ」を開催しました。3歳から80歳まで幅広い世代の方に参加していただき、共同研究者とともに考案したリラクセーションのプログラムを実践していただきました。同時に参加者へ実態調査を実施し、リラクセーション法の効果の分析を行っています。

現在は、卒業生を対象に、リモートでリラクセーション法を実施し、その効果を検証する研究にも着手しています。臨床に出たばかりの看護師は、「リアリティショック」といわれるような大きなストレスを抱えることがあります。自分自身をコントロールし、心身を整える方法を身につけてもらうことは、卒業後の支援という点でも重要だと考えています。

02

子どもの支援、看護教育、リラクセーション研究
共通するところが見えてきた

田野中2026年4月、本学はこれまでの看護学科をさらに発展させ、看護学部を開設しました。これを機に、看護学部の教員間で、今まで以上に情報交換・共有していきたいと考えています。趙先生・岡田先生のお話を伺って、研究と教育、さらに社会貢献において、看護学部の教員同士の連携の可能性をあらためて感じました。

趙私も、お二人の研究・活動を初めて具体的にお聞きし、興味をもったことがたくさんありました。例えば、田野中先生が出版された書籍を拝読し、精神疾患の親をもち、さまざまな困難に直面している子どもたちが救われるのは、「あなたのことを気にかけているよ」というメッセージ、いわば大人からの「関心」なのだと感じました。これは、「ケアリング」の本質であり、それが院内だけでなく、地域全体で支えるという視点が不可欠と感じました。

田野中子どもたちへの支援と看護のいずれも共通するところがありますね。岡田先生の「リラクセーション」の研究とも重なるところがあります。お話を聞いて、精神疾患の親をもつ子どもにも、リラクセーション法を導入すれば、効果を期待できるのではないかと思いました。また、教員の協働活動の一環として、2026年9月5日、岡田先生にご協力いただき、一般の方向けに「NHK連続テレビ小説『風、薫る』からひも解く『看護のちから』 ―隠された看護の本質―」と題したオンライン講座を開講しました。

岡田研究も地域貢献も、一人の力でできることには限界があります。目的を共有してチームを組み、それぞれの力を持ち寄って目的を達成していくことが大切だと考えています。私自身も現在、訪問看護の現場にリラクセーション法を導入していくことを検討しています。他にも多様な先生方とのコラボレーションの機会を増やしていきたいですね。

趙本学には、ACPについて私とは異なるアプローチで研究されている先生方もいるので、ぜひ今後、共同研究や知見の共有ができたらと思います。ACPは「どう死ぬか」ではなく、「どう生きたいか」を考えることでもあります。自分がどのような医療を受けたいのか、なぜそう思うのかを家族に伝えておくことは、本人が意思を伝えられなくなった時に、家族が本人の想いを推測する際の葛藤や心理的な負担を減らすことができます。患者さんが望む「生き方」、望む医療につなぐことが、ACPの最も重要な点だと私は考えています。

田野中非常に重要なテーマですね。いずれにしてもコミュニケーションを通じて本人や家族、看護職が共に「生」をどう支えていくかを考える重要性は、どの分野にも通底しているとあらためて感じました。

趙私も以前から地域貢献に関心を持っているので、今後は今まで以上に気軽に「お話を聞かせてください」と、岡田先生、田野中先生を訪ねたいと思います。ここ二条キャンパスには、看護学部のほかに、保健医療技術学部があり、2026年秋からは、社会福祉学部も移転しました。本キャンパスを拠点に、学部を超えて横断的な連携も進めていけたらいいですね。

03


研究者の連携を教育に還元していく

田野中研究者同士の連携を教育につなげていくことも重要です。研究を通じて得た知見やエビデンスを学生に還元することで、学生が看護のおもしろさを知り、それが次の看護職の育成につながっていく。そうした循環をつくり出したいと考えています。

岡田趙先生の臨床看護師と模擬患者によるシミュレーション教育の研究も、非常に興味深く伺いました。看護学部の1・2年生の演習でも、学生が患者役や看護師役になり、ロールプレイを実践しますが、学生同士ではなかなかリアルに演じることが難しい。しかし、臨床看護師や模擬患者に実践していただけたら、きっと貴重な学びになるでしょう。今後、低学年のカリキュラムにどのように取り入れられるか、ぜひ趙先生にご意見を伺いながら、考えていきたいと思いました。

趙学生たちも、非常にいい緊張感をもって学んでいます。また臨床看護師が直接指導することで、学生の理解の促進はもちろん、看護職に対するモチベーションを高める効果があることもわかっています。

岡田本学の強みは、学生はもちろん、卒業生も大切にしてきたことです。私が今、卒業生を対象にリラクセーション法を実践しているのも、臨床で活躍する卒業生を支援したいという思いからです。卒業生の看護実践能力の向上を支援できれば、いつか彼らが本学に戻り、学生の教育に役立ってくれる。そうした循環をつくれるのではないかと考えています。大学と臨床とのつながりが強固になれば、研究もさらに発展させていくことができると思っています。

趙看護学部の開設に向けた準備の中で、学部のディプロマポリシーや教育目標を設定する際に、多くの先生方と情報交換し、認識を一つにすることができました。その時に培った関係を今後も生かせたらと思います。

田野中今日こうしてお二人にお話を伺い、「もっと一緒に何かできそうだ」と感じました。看護学部、保健医療技術学部、社会福祉学部をはじめ、各学部の特徴を生かして連携し、研究や実践活動を深めるとともに、その成果を学生の豊かな学びに還元していきたいと考えています。

2026年10月更新

BOOK/DVD

このテーマに興味を持った方へ、
関連する書籍・DVDを紹介します。

田野中 恭子
  • 動画『親が精神障害 子どもはどうしてんの』

    ぷるすあるは
  • 『そのこと、子どもたちとちゃんと話そう-こころの病気と家族の気持ち』長沼 葉月 翻訳/金剛出版

  • DVD『BBC 精神疾患をもつ親のもとに生まれて』丸善出版株式会社

  • 『事例でわかる 子ども虐待対応の多職種・多機関連携』中坂 育美 他/明石書店

趙 崇来
  • 『「生きる!」を支えるACP』竹之内 沙弥香、森 雅紀 編/医学書院

  • 『病院で死ぬということ』山崎 章郎/文春文庫

岡田 朱民
  • 公開講座『ビジネスパーソンのためのストレスマネジメント‐こころとからだを調えるリラクセーション法-』2026年10月開講/佛教大学オープンラーニングセンター主催

  • 『看護にいかすリラクセーション技法 ホリスティックアプローチ』荒川唱子、小板橋喜久代/医学書院

  • 『リラクセーション法入門』小板橋喜久代、荒川唱子/日本看護協会出版会

  • 『ストレスに負けない生活 —心・身体・脳のセルフケア』熊野 宏昭/ちくま新書

  • 『キラーストレス』NHKスペシャル取材班/NHK出版新書

教員著作紹介

田野中 恭子
  • 『子どもの語りからわかる 精神疾患のある親をもつ子どもの支援』中央法規

  • 『親の精神疾患とともに生きる子どものレジリエンスを高めるために 家庭、地域、保育・教育現場でできること』かもがわ出版(監修)

  • 『悲しいけど、青空の日 親がこころの病気になった子どもたちへ』サウザンブックス社(翻訳)

  • 『新版 精神看護学』中央法規出版株式会社(分担執筆)

  • 『ケアの実践とは何か 現象学からの質的アプローチ』ナカニシヤ出版(共著)

趙 崇来
  • 『病期・発達段階の視点でみる疾患別看護過程』照林社(分担執筆)

  • 『領域別看護過程 記録がたいへんを解決します 成人(急性期)実習』(プチナース2018年7月号)照林社(分担執筆)

  • 『巻頭BOOK in BOOK、病期・発達段階の視点でみる疾患別看護過程 心不全』(プチナース 2016年1月号)照林社(共著)

  • 『エビデンスに基づく 糖尿病・代謝・内分泌 看護ケア関連図』中央法規(共著)

岡田 朱民
  • 『看護学概論 看護追求へのアプローチ 第5版』医師薬出版株式会社(共著)

  • 『医学・看護・福祉原論 いのちに基づいた医療&健康』ビイング・ネット・プレス(共著)

  • 『看護学概論 看護追及へのアプローチ 第4版』医歯薬出版株式会社(共著)

  • 『アセスメントに使える疾患と看護の知識 心筋梗塞』照林社(共著)

  • 『プチナース5月臨時増刊号 ビジュアル疾患ガイド「心筋梗塞」』照林社

表彰

田野中 恭子
  • 2021年10月 佛教大学 第18回佛教大学学術賞

  • 2020年12月 2020年度日本公衆衛生看護学会 学術奨励賞

KEYWORD

  • こころ
  • ケア
  • 健康
  • 地域
  • 家族
  • 子ども
  • 障害
  • 日本
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SDGsとの関わり

田野中 恭子/ 佛教大学 看護学部教授

TANONAKA Kyoko

[職歴]

  • 1992年4月~1997年3月 (株)ベネッセコーポレーション 社員
  • 2002年4月~2007年3月 堀川病院 保健師・看護師
  • 2007年4月~2010年3月 京都橘大学 看護学部看護学科 助手
  • 2012年4月~2020年3月 佛教大学 保健医療技術学部看護学科 講師
  • 2020年4月~2026年3月 佛教大学 保健医療技術学部看護学科 准教授
  • 2026年4月~現在 佛教大学 看護学部看護学科 教授

岡田 朱民/ 佛教大学 看護学部講師

OKADA Akemi

[職歴]

  • 臨床経験を経て、看護専門学校専任教員として勤務
  • 2010年4月~2015年3月 明治国際医療大学 看護学部看護学科
  • 2015年4月~2017年3月 京都学園大学 健康医療学部看護学科
  • 2017年4月~2026年3月 佛教大学 保健医療技術学部看護学科 講師
  • 2026年4月~現在 佛教大学 看護学部看護学科 講師
教員紹介

趙 崇来/ 佛教大学 看護学部講師

CHO Soongrae

[職歴]

  • 2015年4月~2020年3月 佛教大学 保健医療技術学部看護学科 助教
  • 2020年4月~2022年8月 大阪市立大学 看護学研究科・医学部看護学科 講師(内2022年4月~8月 大阪公立大学 看護学部看護学科 講師)
  • 2022年9月~2026年3月 佛教大学 保健医療技術学部看護学科 講師
  • 2026年4月~現在 佛教大学 看護学部看護学科 講師
教員紹介