#国際#ことば#文学#環境#子ども#日本
豊かな言語体験を通して自然と英語力を
育む英語教育の授業づくり
赤沢 真世佛教大学 教育学部准教授
Introduction
「なぜ学校教育で英語を話せるようにならないのか」。そんな疑問をきっかけに、赤沢真世准教授は、楽しみながら自然と話す、聞く、読む、書く力を身につけられる英語教育の授業づくりを目指して研究を進めている。
断片化された知識ではなく
言語体験を重視する「ホール・ランゲージ」の思想
2020年4月、新しい学習指導要領に基づき、3年生から外国語活動、5年生から教科「外国語」科が必修化され、本格的に小学校から英語教育が進められるようになった。
これまで日本の学校では、長らく「読む」「書く」に主軸を置いた英語教育が行われてきた歴史がある。新学習指導要領では、「聞く」「読む」「話す(やり取り)」「話す(発表)」「書く」の4技能5領域をバランスよく習得することが目標に定められ、中でも小学校ではとくに「話す」「聞く」能力を伸ばすカリキュラムが組まれた。一方で、「読む」「書く」という領域は、多くの子どもがつまずきを感じる領域であり、小学校英語教育のなかで、音声面の学習から読み書きの学習へとどのように丁寧につなげていくかは論点の一つだった。赤沢真世准教授は、この点において具体的な指導法を提案し、読み書き指導の方向性の確立に寄与した一人だ。
「なぜ、これだけ長く勉強しても、英語を話せるようにならないのか」。「なぜ、英語を嫌いになってしまうのだろうか」。2011年に小学校で「外国語活動」として英語教育が始まる数年前、研究者としての道を歩み始めたばかりの赤沢准教授は、小学校英語教育こそが日本の英語教育を変えるチャンスとなると考え、かねてから疑問を感じていた日本の英語教育を再検討するべく研究をスタートさせた。
赤沢准教授が着目しているのが、アメリカをはじめとした英語圏の英語(母語)教育で実践されてきた「ホール・ランゲージ(Whole Language)」という教育思想である。「ホール・ランゲージは、文法や綴りの法則から言語を学ぶのではなく、話し言葉や聞き言葉はもちろん、読み、書きの言葉も実際の言語活動の中でこそ発達するという考え方に基づいています」と赤沢准教授は説明する。実際、英語圏の学校では、まずたくさんの言語体験を積むことに重点を置き、子どもの生活や興味から自然に生まれる言語発達を重視するという。また、ホール・ランゲージは第二言語教育においても注目されている。赤沢准教授は、こうしたホール・ランゲージの理論と実践こそが、日本の小学校英語教育の授業づくりの基盤となるとして、授業のあり方や指導法の研究を続けている。
楽しみながら自然と読み書きへと
意識を向けられる新しい英語教材を開発
「英語には、『フォニックス(phonics)』という単語の綴りと発音の関係性を示すルールがあり、これが英語を読む・書く能力の習得を難しくしています」と赤沢准教授。日本語は綴りと発音が一対一で対応するが、英語は同じ綴りであっても、その前後の綴りによって発音が変わることがある。例えば日本語では「あひる」も「あめ」も、同じ「あ」と発音するのに対し、英語では“CAT”と“CAKE”で“A”の発音が異なる。「どの綴りとの組み合わせでどのような発音になるか、規則性を知識として覚えてから読んだり書いたりするのは、非常に大変ですし、子どもにとってあまりおもしろくありません。しかしホール・ランゲージの思想に基づく教育では、そうした規則性を最初に教えてからではなく、子どもたちの興味・関心に沿って、絵本を読み聞かせたり、活動のなかでたくさんの単語に触れながら、子どもたちが自然とその法則に気づいていくことを重視します」と言う。
「遊びの中で楽しみながら自然と英語の知識や技能を身につけていく。そうした学習のあり方を今後始まる日本の小学校での外国語教育にも導入し、小学校から日本の英語教育を変えていきたい」。そうした強い思いを抱いた赤沢准教授は、研究知見をもとに小学生向けの新しい英語教育の教材を開発した。
『えいごの文字 はっけん!ノート』は、アルファベットや、文字と音の関係性について子どもたちが自分たちで「発見」することで、読むことや書くことの前提となる部分の興味・関心を高めることを目指した。この点は、当時小学校英語教育で用いられていた文科省の副読本には、取り上げられていなかった。「例えば、生活の中の身近なアルファベットを探すところから始め、遊びや会話を通して発音の違いや文字と音の関係性に気づいていけるような仕掛けを考えました。Pから始まる単語を子どもたちが挙げていき、Pの文字とその音の共通性を子ども自身が気づくような活動をします。そうすると、Sは?Tは?と子ども自身が文字の持つ音に意識を向け、綴りから文字と音のルールを見つけていくようになります」と赤沢准教授。その際には、アルファベット順ではなく、赤ん坊が最初に発話する「バブバブ」の「B」や「パパ」「ママ」の「P」「M」から掲載するなど、発達段階や音への意識のしやすさを考慮した順番で音や綴りに意識を向けられるような工夫を凝らした。教材は教員向けの研修や小学校現場で配布、使用されると反響を呼び、改訂しながら版を重ねている。加えて、教師用の指導編も加筆し、指導のポイントも示している。小学校教員は、英語教育の専門家ではないため、こうした文字についての段階を踏んだ丁寧な指導について具体的に提示することを心がけたという。
2020年から用いられている教科書では、赤沢准教授が執筆者の一人として参加している教科書(教育出版『One World Smiles』)だけでなく、全社教科書に、音と綴りの関係性の学び方など、赤沢准教授が訴えてきた学習の視点が反映された。「子どもの気づきや発見を大切にすることを現実の教育現場に導入するのは、まだまだ難しい」としながらも、新しい視点で教材を開発・検討してきた成果が一定評価されたと手ごたえを語る。
子どもの学習成果と教員の評価が対応する教材を開発したい
現在の赤沢准教授の関心は、外国語学習の成果をいかに「評価」するかということにある。「新しい単語や表現といった知識・技能を評価するだけでなく、実際のコミュニケーションの場面で、相手により良く伝えられるかも含めてバランスよく評価する方法が必要だ」と赤沢准教授は考えている。「主体的に学習に取り組む態度」や「英語のパフォーマンス」は、従来のペーパーテストだけでは十分に評価できない。赤沢准教授は多様な評価法を検討し、評価計画の作成やパフォーマンスを評価するためのルーブリックの活用などを提案している。特に力点を置くのが、「できていないこと」を突きつけるのではなく、子ども自身が「できるようになった」ことを見つめられるような評価にすることだ。ルーブリックによる評価が広がってきた今、その点を見失ってはいけないとして、学校に足を運び、教員の意見も聞きながら、さらなる検討を重ねている。赤沢准教授の研究と実践が、英語を楽しみ、使いこなす子どもたちの育成につながっていく。
BOOK/DVD
このテーマに興味を持った方へ、
関連する書籍・DVDを紹介します。
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『小学校外国語 読み書きのステップと評価』 R3年度改訂版 旧『えいごの文字 はっけん!ノート』/赤沢 真世
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『小学校外国語科・外国語活動の授業づくり』赤沢 真世 編著
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『すぐれた小学校英語授業: 先行実践と理論から指導法を考える』泉 惠美子 他編/研究社
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『教科の「深い学び」を実現するパフォーマンス評価: 「見方・考え方」をどう育てるか』西岡 加名恵、石井 英真/日本標準
教員著作紹介
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『小学校教育用語辞典』ミネルヴァ書房(共著)
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『よくわかる教育評価』【第3版】ミネルヴァ書房(共著)
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『教育評価重要用語事典』明治図書(共著)
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『すぐれた小学校英語授業:先行実践と理論から指導法を考える』研究社(共著)
赤沢 真世/ 佛教大学 教育学部准教授
AKAZAWA Masayo
[職歴]
- 2008年4月~2010年3月 京都大学大学院・教育学研究科・助教
- 2010年4月~2015年3月 立命館大学・スポーツ健康科学部・准教授
- 2015年4月~2020年3月 大阪成蹊大学・教育学部・准教授
- 2020年4月~現在に至る 佛教大学・教育学部・准教授
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